第50話「取得物の返却」

 ハイエルフの施設で拾ったスライムを、返却しました。

 

 爆発寸前で収納したのをどうしようか悩んでたけど、いい処分先があって良かった。

 しかし、威力凄いな。二万以上いた魔物の軍勢の大半が吹っ飛んだぞ。ハイエルフの遺跡どころか周囲の森ごとなぎ払える威力だ。


「店長、そろそろ降下を?」


 そう問いかけてきたのはユニアだ。今回は決戦ということもあり、ワルキューレの装備を身につけている。背には輝く飛行用の魔法陣。ハスティさんから教えて貰った隠行の魔法で接近しての空爆である。


「ああ、周りは気にしないでいいとはいえ、油断するなよ」


「了解しました」


 そう答え、ユニアは神具の剣を出した。俺も収納魔法から、ミスリルの長剣を取り出す。

 真下を見れば、光り輝く球体が見える。魔法による強力な結界だ。魔族ベレブの居た位置で展開されている。

 真上にスライムを投下したにも関わらず、目標はしっかり健在だ。


「神界の感知。弱いですが祝福です」


「厄介だが、やるしかない」


 ユニアの分析結果は予想通りだ。どういう経緯かわからないが、例の悪神から力を授かったんだろう。


 これからの戦いに身構えながら、ゆっくりと降りていくと、地面についた所でちょうど結界が解除された。


 光の幕の向こうから現れたのは、人間に近い見た目をした魔物だ。ローブの改造品と思われる、黒衣を身に纏った痩せた男性。神経質で真面目そうな顔をしている。

 額には宝石。恐らく、これが『魔王の骸』から力を得るための手段なのだろう。黒衣ごしに身体の各所からも強力な魔力を感じるので、自らを実験体として色々と仕込んでいるのかもしれない。


「ワルキューレと人間とはね。神界からの刺客かね?」


 声はかすれているが落ち着いた口調で、ベレブは俺達に問いかける。


「そんなようなものだ」


 微妙に当たっているような気がしたので、俺はふんわりした表現で返した。


「先ほどの爆発。ハイエルフの施設に派遣していたスライムのなれの果てに見えたがね?」


「やはり、あれはお前がやったんだな。銀の森のキメラ、ウジャスの町の騒乱もか」


「銀の森とは懐かしいね。成果が出るには数年かかると思ったのだが。ウジャスの町は成功しなかったなぁ。もう少し混乱してくれるかと思ったんだがね」


「空中庭園にドラゴンをけしかけたのもあなたですね。あのドラゴンはどこかおかしな個体でした」


「うんうん。空中庭園に差し向けたドラゴンが全滅したのは意外だったねぇ。ここにもう一体ワルキューレがいたことで疑問が消えたよ」


 実験が上手くいかなかった。ベレブの話しぶりにはその程度の感慨しか感じさせない。世界各地で様々な策を実行していたようだが、本当に実験感覚だったんだろう。迷惑な奴だ。


「それ以外にも、世界各地で色々とやらかしているようですね。おかげでわたし達がゆっくりできません」


 俺の気持ちを代弁するかのようなユニアの発言を聞くと、ベレブは軽く笑った。


「そんなことまで責任は持てんねぇ。オレは全力で世の中を混乱させるべく、策を用意しただけなんでね」


 世界各地で冒険者や騎士団やらの人々がこいつの用意した策略への対応に今も追われているはずだ。ある意味、全世界的に残業時間を発生させているわけで、世界の敵である。

 なんだか腹が立ってきたな。


「全てはこの時のためか」


「お前達のせいでかなり台無しだがね」


 余裕を崩さないベレブ。本当に後方にいた魔族か? 自分の実力に自信がないとできない態度だ。


「さて、たった二人でオレをどうにかする気かね? こちらの軍は壊滅したわけじゃない。すぐにとって返してくるぞ?」


「それについては心配ない」


 直後、俺達の遙か後方でで大爆発が起きた。


「な……なんだ? これは、魔法か?」


 驚くベレブ。ようやく、動揺を見せたか。

 対して、俺とユニアは音の方を振り返りもしない。予定通りだ。


「事務仕事でストレスを溜めたハーフ・ハイエルフが暴れているだけだ」


「大魔法使いハスティ……。貴様、何者だね!」


「ただの雑貨屋の店主だよ」


「それも売れない雑貨屋です」


 こいつ相手に名乗るつもりはない。名前も知らない相手に始末されるといい。

 俺とユニアはそんな思考を乗せた回答をすると同時、武器を構えて駆け出した。 

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