第33話「一掃」

 俺は各種結界を張った森の中から、こっそりと施設の方を覗き見る。

 そこにいるのは魔物の軍勢だ。四足のやつも二足のやつもいっぱいいる。ゴブリンっぽい見た目のが多いが、品種改良でもされているのか少し大きい。

 数にして二百程度、施設の周りに散発的な攻撃を加えている。内部はスライムに任せるつもりらしく、入ってこないらしい。


「……強い個体はいないとはいえ、集まったもんだな」


『うむ。とはいえ、基本的にスライムを施設内に送り込んだら見守っているだけの連中だ。連日騒いでいるだけだよ。たまに施設に攻撃されるけど』


「それは平気なのか?」


『少しリソースを使っているけれど、問題ないとも。魔法使いはスライムをここまで連れてくる役目の者でね、大したこと実力は無い』


 つまり、スライムが本命で、その輸送のための軍団だということか。なんとなく、捨て駒みたいなにも感じるな。ハイエルフが本気で迎撃して来たら全滅必至だ。


『さて、どうする? イスト君の実力的に倒せない数ではないが、ちょっと面倒な量ではあるだろう。お手並み拝見だ』


 煽るような口調で言ってくるファルカイン。まるで、これから起きる破壊の予感に興奮しているかのようだ。


「なんでそんなに余裕があるんだ……。命の危機に晒されてるのはお前なんだぞ」


 俺が挑発されて帰ったらどうする気だ。


『無論、信頼しているからだとも。君はこの状況を見て捨て置ける人ではないしね』


「何事も例外はあるんだぜ……」


『すいませんでした。先生、お願いします』

 

 一瞬本気で帰ろうと思ったことが伝わったのか、マジ口調で話したら、頭を下げてきた。


「よし、働くとするか」


 ミスリルの剣を持って頭の中で呪文を詠唱。俺の体から魔力が剣に流れ込んでいき、徐々に刀身が輝く。これは魔力で強化しているのではなく、魔法が「入っている」状態だ。

 この状態を維持して、戦ったり、発動させるのが魔法剣だ。結構集中力とコツが必要で、理屈を教えても再現できた者はいない。


 今回は相手が多いので魔力は多めに注ぎ込んだ。周辺に結界があるので、気づかれてない。強い魔法使いでもいれば話が違うんだが、本当に敵は今ひとつっぽいな。


『おお、魔法剣だね! 久しぶりに見るが、実にユニークな技術だ!』


「神様が加護をくれればもっと楽なんだけどな」


 神様はハイエルフ絡みだと加護をくれないことが多い。星界にまで至ったハイエルフが近くにいるなら、それでどうにかなるだろと思っているからだ。そんなわけで、今回は加護を期待できない。


 もちろん、このくらいなら問題ないのだが。


「いくぞ!」


 軽い叫びと共に、俺は魔物達のいる方面の地面に向かって、剣を大ぶりする

 空気を切り裂き、切っ先が地面に突き刺さる。


 その瞬間、地面が爆発した。 

 現象として起きたのは地面の隆起だ。遺跡の前の地面全体から土の槍が飛び出したと思ったら、出た時の勢いそのまま地中深く埋まったりする。

 繰り返される、大地に脈動。見えない子供がそこで砂遊びしているかのような、滅茶苦茶な光景が一分少々繰り広げられた。



 全てが終わった後、そこにあったのは掘り返されて茶色くなった地面の一体だ。もちろん、そこにいた魔物達は影も形もない。地の魔法によって生み出される轟音にかき消され、悲鳴すら聞き取れなかった。


 この場にあるのは耕された地面とハイエルフの綺麗な遺跡のみ。そんな光景を見ると少しスッキリする。


「よし」


 確認を終えた俺に答えるように、ミスリルの剣の刀身が硝子のように剥離して崩れ落ちた。この世界でもっとも魔法と親和性が高く、軽くて丈夫なミスリルですら、魔法剣には耐えきれない。


『滅茶苦茶揺れて、かなり恐かったんだが……。魔物の残数、ゼロ。見事にやりきったものだね』


「知性のありそうなのは残した方が良かったかな……」


 勢いで情報源を潰してしまったかとちょっと後悔だ。大した奴はいなそうでも、どこから来たかくらい聞けたかもしれない。


『ずっと解析していたけれど、偉い奴と連絡を取る様子はなかったよ。武器を持たされた使いっ走りの可能性が高い』


「そうか」


 ここは気持を切り替えよう。ハイエルフ達から情報を得た方が早いし確実。きっとそうだ。


「とりあえず、施設の中に入るぞ」


 収納魔法から新しい剣を出して走る。次の目標はたった一匹で施設を制圧した、凶悪スライムだ。

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