第32話「魔法剣」
「魔法剣とはどういうものなのでしょうか?」
空中庭園の事件の少し前だ。二人で店番をしている時に、ユニアが唐突にそんな発言をした。店は当たり前のように暇だったし、話題としてちょうどいいと思ったので、俺は詳しく話すことにした。
「魔法を使うとき、杖を媒体にして詠唱すると、そこに魔力が流れていくだろう」
「魔力と親和性の高い素材を利用することで、効率よく魔法を完成させる手法ですね」
「伝統的に杖を使ってたわけだが、媒体はなんでもいいんだ。実際、護身用に腕輪とか指輪に希少素材を仕込んで発動体にする魔法使いはいる」
「店長はそれを剣でやったと?」
俺は頷いた。本当に、ただそれだけのことだ。多分、この世界の歴史を紐解けば誰かがやったことのある手法。それを、ちょっとイレギュラーな使い方をしてみただけ。
「そう。それで、魔法の詠唱中、剣に魔力が留まってる時に斬りつけてみた」
「そんな簡単な理屈なのですか。たしかに、試したことはありませんでしたが」
「実際、びっくりしたよ。ちょうどオーガ相手に戦ってる時でな。剣からファイアーボールを出す前に接近されたから仕方なくそのまま斬ったんだ」
「それで、オーガはどうなったのですか?」
「体の中でファイアーボールが発動した」
「……凄惨な光景ですね」
今でもありありと思い出すことができる。目の前でオーガが爆炎に変わって爆発四散した瞬間を。色々まき散らして大変なことになり、しばらく肉が食べられなくなった。それ以降、爆発する魔法の扱いに慎重にもなった。
「その時は、俺も巻き込まれた。ただ、使える技術だと思ったんで、研究してみたんだ」
実際、肉体や武器を強化する魔法は存在する。それと攻撃魔法を組み合わせるというアプローチだ。少しコツは必要だが、なんとか出来るようになった。火系の魔法はともかく、風とか氷の魔法剣は使い勝手が良い。
「通常なら爆発した時点で、危険だと思って研究などしないと思いますが」
「まあ、知識があったからな」
前世のゲームやら漫画の知識が役に立った瞬間である。ものにするまで仲間の協力も得て数年かかったけれど。
「好奇心から聞くのですが、魔法剣を見せていただくことは?」
「今度出かけた時で良ければな。あんまり強いのは見せられないんだ。武器がついてこないから」
「通常の剣や弓は魔法を通すような想定で作られていませんからね」
ユニアの言うとおりだ。鋼で作られた武器で魔法剣をやると、消耗が激しい。ファイアーボールなら三回くらい詰めて発動すると剣が消滅してしまう。
解決法は杖のように魔法を通しやすい素材を使うことで、今は主にミスリルを使っている。それでも、大技には何度も耐えられないが。
「なにより今は加護をもらって戦うことも多いしなぁ」
ぶっちゃけそっちの方が強い。ただ、いつもあてにはできない。神様は気まぐれだ。
「それはそれで、武器がついてこないようですが」
「まあ、加護やら魔法剣を前回で使う相手と戦う事なんて、もうないはずだよ」
気楽に流した。その時は。
まさか、こうもあっさり魔法剣を全力で使うときが来るとは思わなかった。
○○○
「……なんで俺はその時の雰囲気に流されて、神具をユニアに渡しちまったんだろうな」
「どうかしたのかい、フィル改めイスト君!? 困ったことがあれば相談に乗るよ!」
「武器にいいのがないんだよ!」
雑な口調でファルカインに言う。どうも、こいつと話すときは口調が粗雑になってしまう。向こうのノリが原因だろうか。おかげでハスティさんから仲良しだと思われていてちょっと迷惑だ。
「そうか! 今の君には神剣がないからね! よし、約束しよう! この件が終わったら月製の剣を一本進呈するとね!」
「今欲しいんだよ! ……それはそれとして助かるので後でください」
「正直で宜しい。それで、どう対応するのかな?」
話がまとまったとばかりに、真面目な顔をするファルカイン。最初の煽るみたいな口調はなんだったんだ。
「外の魔物達は大したことないから、一掃するとして、問題は中だな」
「スライムは厄介だね」
説明によると、施設の周辺に展開する魔物の群れはそれほど脅威じゃない。知性のある人型は少数、魔法を使えるのがいて派手に爆発とかさせてるが、ハイエルフの建物には傷一つついていないそうだ。
数は数百だが、そこはそれ、魔法で片づけることができるだろう。
問題はスライムの方だ。個人的に弱そうなイメージがある魔物だが、実際はタイプが色々ある。中には剣にも魔法にも強くて再生しまくりで強敵だって珍しくない。
そして、今回のはそういうスライムだった。魔力を吸収して再現なく拡大するタイプで、攻撃に反応して反撃してくるそうな。ハイエルフの施設を正面から破って侵入できるパワーもある。
「中心核を叩くのがセオリーなんだが。一回そちらの動力源とめられないか?」
「それをやると、真っ先にぼくの所に向かってきそうなんだが」
「いや、上手くすれば俺に向かってくるかなと」
高い能力の根源である、施設の動力を断ち、そこに魔力を沢山もつ俺が登場。そうすれば囮になるかと思ったんだが。
「その可能性もあるな……。いや、駄目だな。施設の防衛機構まで止まったら、一気に持って行かれてしまうだろう。動力源自体は魔力を蓄える仕様なんだよ」
駄目か。ファルカインの様子にふざけた気配が無い。効果ありと見れば、施設の一時停止だって辞さない男なので、この結論が妥当と見るべきだな。
「物理で対応するにはでかすぎる。魔法には強い。毒は効かないか……」
ハイエルフの用意した防衛機構は強力だ。打撃に魔法に毒と、色々やったが退治できなかった。動力源から魔力を吸収されたのも原因だろう。
「これはあれだね。イスト君必殺の魔法剣の出番とみたね! あれならスライムの内部に魔法を流し込んで、全体を攻撃できる!」
さすがは場数を踏んでいるハイエルフだ。よくわかってる。
「問題は火力の調整だな。火系でいくのが一番確実そうだから、それでいきたいんだけど」
「それって、失敗すると施設内に入り込んだスライムが爆発するやつでは! 氷! 氷がいいと思うなぼくは! カッチコチにしちゃってよ!」
「それだと停止するだけで、また活動再開しそうなのが恐い」
施設内で爆発が起きまくるのを危惧したファルカインが慌てている。残念、効果的だと思ったんだが。
いっそ消滅させる魔法でもあればいいんだが、残念ながらそういう即死魔法的なのを俺は知らない。
仕方ない。次善の策でいこう。
「外の魔物を撃破後、施設内部のスライムを魔法剣で部分的に切除していく。中心核の近くにいくまでに小さくできるだろうし、弱体化するはずだ」
「それで、中心核に一撃! というわけだね! よし、内部のナビは請け負った! できれば早めに頼むよ!」
明るく言うファルカインの表情がちょっと堅い。案外追い詰められているのかもしれない。
「よし、早速始めよう。魔物退治の始まりだ」
急いだ方が良い。そう判断した俺は、収納魔法から、ミスリルの長剣を取り出した。
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