第14話「屋敷の中へ」
「自分でやっといてなんだけど。悪いことした気持ちになりますね」
『ずるいとは思うが、これもお前さんの技能じゃから良いと思うよ』
屋敷に突入した俺は通路を歩きながらハスティさんを会話していた。魔法の明かりが天井に灯っているおかげで、室内は意外にも明るかった。設置されていた魔法陣とは別口のマジックアイテムなので照明だけが残ったようだ。歩きやすくて良い。
俺は事前にハスティさんから説明を受けたとおり、屋敷の中心部を目指していた。そこに問題の魔法使いの工房があるはずだ。経路がちょっと面倒で、一度登って執務室に入り、そこから降りるようになっている。
そんなわけで、手近な階段を登ってみると、小さな部屋に辿り着いた。
階段から即倉庫という構造は考えにくいので、侵入者を迎えるための空間だったのだろう。残念ながら、俺の仕業で本来あったであろう魔法のトラップは台無しになっていて、空虚な空間が広がるのみである。
「目的地がわかりやすかったのはいいですね。ただ、気になるところがありますが」
「うむ。まさか、一カ所だけ独立した結界が敷かれた部屋があるとはのう」
結界が解けた現在、屋敷は丸裸だ。俺は感知魔法を複数回使って、まだ稼働している魔法生物の位置と、犯人の位置は特定している。
それによると、犯人は自分の執務室に居るようだったが、気になる点が一つあった。
執務室からいける地下工房。その更に下に空間があるようなのだ。
しかも、そこには結界が残っている。屋敷全体を覆っていたあの魔法陣とは別の魔法が設置されているのである。
恐らく、そこには何らかの研究結果や危険物が保存されているのだろう。そうでなければ防衛魔法とは別口に魔法を設置する理由は思いつかない。
「向こうは異常に気づいてるでしょうから。なにかの動きがある前に辿り着かないと」
『しかし、お前さんの見立てだと工房から人は動いてないんじゃろう?』
「それも気になるところです」
通路を歩く、何個目かのドアを開きながら答える。事前に地図を見せて貰っていたが、どうも古かったらしくあてにならない。防衛魔法を発動した段階で屋敷の構造が変わったのかもしれない。
正直、執務室から人は動いていないのは不気味だ。地下に保存した何かを発動させるには、そこで十分ということかもしれない。相手の手札がわからないのは脅威である。
「……中枢に近づけばさすがに警備もいるか」
何個目かのドアを開き、その向こうにいた存在を見て呟く。
ちょっとした教室くらいの広さの空間には、立派なリビングアーマーが三体。悠然と足っていた。名前の通り、魔法で生み出された動く鎧だ。見た感じ、鎧の作りが良く、魔法までかかっている。巨大なアイアンゴーレムよりも手強いかもしれない。
「強力なリビングアーマーを三体確認しました」
『押し通るのじゃ、イスト。急いだ方が良い』
「いいですとも」
応えつつ、俺は収納魔法からミスリルの小剣を抜き出す。広い室内なので長剣も出せるが、こういった場所では俺は短めの獲物を好んでいる。取り回しがしやすいので。
物言わぬ鎧は俺が剣を構えたのを見ると、重そうな幅広の長剣を抜いて襲いかかってきた。
「これは強引にやっていいやつですね」
『うむ。繊細な解除より力技じゃな』
金属の軋む音と共に近寄ってくるリビングアーマー三体。それを見据えつつ、ハスティさんと戦術を確認する。
魔法使いの戦い方にも色々な流派みたいのがあるが、うちは力押しが売りだ。ハーフハイエルフのハスティさんは有り余る魔力でもって戦うスタイルなのが原因である。
そしてそれは勿論、弟子である俺にも受け継がれている。
「マジックエッジ!」
頭の中で魔法を用意し、呪文を唱える。即座に小剣の刃が一瞬青白く輝いた。魔力の刃で武器を覆う一般的な強化魔法だが、必要以上の魔力を注ぎ込んである。
「だいたいあの辺か……」
屋敷に入ってから常時発動している感知魔法の目でリビングアーマーの魔法を素速く観察。 魔法には発動の中心になっている箇所があり、そこに強力な魔力の一撃を当てれば崩壊させることができる。それは今回も例外はなく、すぐに場所は把握できた。
「いくか!」
かけ声と共に、足を踏み出す。リビングアーマーの動きは滑らかだが単調だ。設定した魔法使いの性格か、鎧の強度に自信があるのか、あっさりと接近できた。
敵の接近に気づいて長剣を振り下ろす一体目のリビングアーマー。俺はその横をすり抜け、そのまま回り込んで背中の真ん中にミスリルの小剣を突き立てる。
「……よし!」
青白い魔法の飛沫が散ったのを見て、すぐに次の目標に移る。撃破の確認は必要ない。魔法の目で術の破壊を確認した。
状況はまだ二対一だ、動きを止めると簡単に囲まれてしまう。実際、二体目は既に接近し、俺に向かって長剣を振っていた。被弾上等の攻撃か。魔法生物ならではの戦法で、良い設定だ。
「マジックブラスト!」
もちろん、それを一撃をもらうわけにはいかない。
左手を突き出し、呪文と共に魔法を発動。魔力の衝撃波を飛ばすだけの簡単な魔法だが、威力は限界まで高めたものだ。二体目のリビングアーマーは鎧の中心部分をひしゃげさせつつ、壁に叩き付けられる。
もちろん、その隙は見逃さない。素速く飛びついて小剣で魔法を貫く。
「最後!」
振り返り、向かって来ていた最後のリビングアーマーへ走る。心を持たない魔法生物は仲間をやられて焦らないし、動きも変わらない。相変わらず緩慢な動作の横をすり抜け、俺は小剣で斬り込んだ。
時間にして数分。魔法使いが自信を持って配置していたであろう、リビングアーマー達は全滅した。
「こんなもんですかね」
『ワシだったら拘束魔法で止めて、そのまま強引に吹き飛ばしておったのう』
「ハスティさんは力技すぎるんですよ……。室内でそれやったら自分も怪我しますよ」
そんなことをしたら、リビングアーマーが爆発四散して破片で怪我をするかもしれない。それを警戒して、普通に戦ったというのに。
『その程度で怪我をするほど迂闊ではないわい。まあよい。目的地はもうすぐじゃ。戦闘には気づいたじゃろうし、さっさと行くがよかろう』
「ええ、そうしましょう」
屋敷の主の部屋はもう目の前だ。俺の魔力感知でも変わらず反応はそこにある。
結構な速度で屋敷が攻略されているので焦っているはずだが、まるでそんな気配が無い。
『念のため言っておくが、油断せぬようにな』
ハスティさんも同じ気持ちのようだ。実力的に万に一つも負けないだろうが、万が一がおきるのが実戦というものだ。
「ええ、詳しい状況がわかりませんしね」
そもそも、穏やかだという息子がこんな強硬手段に出たこと自体に違和感がある。
なにか、俺やハスティさんの知らない出来事が待っているかもしれない。警戒は十分しておこう。
そう思いつつ、俺は目的地へと繋がる扉を開けた。
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