ワタシタチ

@yagiden

ワタシタチ

 高校時代。

 根暗で会話が苦手な私は、あなたと出会えて嬉しかった/陰キャでコミュ障なわたしは、同類を見つけたと思って喜んだ。

 三年間、ずっと一緒にいた。あなたといるのが心地良かった/美人なあなたと友人でいる事が、自慢だというのと同時にコンプレックスでもあった。

 告白される事は多々あったけど全て断った。あなたといる方が楽しいからだ/好きになった人は、あなたの事が好きだった。わたしが特別視した人は、あなたにとってただのクラスメイトAでしかなかった。

 唯一無二の友人だったあなたとの通話が、毎日の楽しみだった。そのせいでテスト勉強を疎かにしてしまい実力を発揮できなかったけど、それさえ話しのネタになると喜んだ/いつもいつもあなたから通話をかけてくる。それ自体には優越感を覚えていた。ただ、そのせいで勉強に身が入らないとぼやいてたけど、成績はいつもクラスの上位に位置しているのが妬ましかった。

 三年間をあなたと共にできて楽しかった。多分、私はあなたを愛していたのだと思う/三年間、あなたから離れられずに過ごして苦しかった。明確に言える、わたしはあなたを憎んでいたのだ。


 卒業後。

 Vチューバーというものになった。検索してもそれが何なのか全く出て来ず、怪しさは漂っていたけど、サブカルは好きだし何となく時代の最先端になるようなジャンルな気がしたのでAという企業に応募した/地元の企業に就職した。勤務体系、人間関係は悪くない組織だけど、やって行けなさそうだった。わたしが一番下っ端で一番仕事が出来ないという状況が嫌だったのだ。人数が少なく次の新入社員も当分来ないので先行きに不安しか感じない。

 激務だった。そのくせ、収入も少ない。動画投稿サイトの収益化なんて通る気配はないし、立て続けの案件を何とかこなしていっても、大半の報酬は会社の運営費に充てられる。皆が皆、寝不足が続く日々だ。それでも充実した日々に違いはなかった/会社を辞めた。原因は劣等感。負け癖。自己肯定感の低さ。そこから来るネガティヴな思考。全部あいつが関わって来ている。何とかしたいと思っていた矢先、風の噂で、あいつがVチューバーなるものになっている事を聞いた。Vチューバーでなら勝てるかもしれない、そう思い立ちBというVチューバー関連の企業に参入した。

 最近、多くの企業から新たなVチューバーが誕生している。水面下で競争社会となっていた。それでも他所のVとは懇意にするべきだと私は思う。相手の知名度を上げる事になったとしても誘われたコラボ企画には参加するようにしたいし、SNS上での交流も欠かさない。Vチューバーという界隈が盛り上げて行くというのが、今の私のやりたい事だ/わたしもBの中ではだいぶ売れてる方になった。そろそろコラボは控えた方が良いだろう。もう他所からの数字は吸い尽くした。これ以上は意味がない。それどころかわたしの数字が分散しかねない。⋯⋯昔に比べて自己肯定感は高まった。でもあいつに対する劣等感はまだ消えてない。まだ、あいつの方が数字を持っているからだ。まだまだわたしは、独りで邁進を続ける。


 だいぶ、落ち着いてきた。V全体の波も私の人気も/抜いた。あいつの数字を抜いた。登録者数も、動画再生数も、同時接続数も。あまり実感はないけど、明確な事実は数字として残っている。

 ある一つの大きな企画を立てた。これまでのVチューバーの歴史を総括するような企画だ/あいつは完全に格下の存在となった。落ちぶれたあいつの事をアンチスレッドにでも書き込もう。

 時間は24時間、ゲストは総勢約200人。今まで共演した事がある人全員に声をかけたらその人数になった/何やらあいつは企んでいるらしい。数字集めに躍起になっているのを想像して暗い笑みが溢れた。

 私の為なら是非、と皆口を揃えて言ってくれた。そうして開かれた企画は大盛況に終わった。桁違いの同接と再生数を残したけど、それはどうでもいい。それでは得られない充足感で満ちているからだ/『やっぱスゲーわ』『最高に質だった』アンチスレッドはあいつを称賛するレスでいっぱいだった。そして一人も招待されてないBのVチューバーに話題が向く。『最近他所とコラボしてないからだろ』『こいつら数字しか見てないからな』それの何が悪いんだ。

 

 根暗な高校生の頃には考えられないくらい、周りに人が増えた/あいつへの劣等感が、また湧いて来た。

 昔の楽しい思い出が霞む程、今は充実している/過去を振り返ればすぐそこにお前がいる。

 次、また大きい企画をやるなら、今度はBの人も誘おう/絶対に勝てないようにできているんだろうか。いい加減、苦しい。どうすれば解放されるのか。その方法は、多分わたしは最初からわかっている。負けを認める事。あいつの事が好きだったクラスメイトのように、あいつに世話になったと慕う格下のVチューバー共のように。それが本当に良いのかどうかはわからないけど、この苦しみから解放されるには、もう一度、あいつと会って話しをしなければならないとわたしは思う。



 久しぶり!/ひ、久しぶり


 再会した。話しをした。ようやくワタシタチは親友になれた。

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