不安は勝てない

シヨゥ

第1話

 生まれつきの不安症で何事にも不安を感じて生きてきた。

 積み上げてきたと思ったものはもしかしたら何もないんじゃないか。そんな過去への不安。

 このままでいいのか。そんな現状の不安。

 今を変えたらより状況が悪くなるんじゃないか。そんな未来への不安。

 不安に取りつかれると何もできなくなる。動きだけなら休憩を挟めばいい。一番の問題は考えることすらできなくなることだろう。改善しようにも改善する手立てを考えられない。結局『今』を継続することしかできない。そんな『今』も不安で考えることも出来ずに流されてきた結果だ。変わりたい。でも変われない。そんな無力感につい泣いてしまった。それを運が悪いことに後輩に見られてしまう。

「そんなに不安なら一番不安が少ない選択をしていけばいいんじゃないですか?」

 落ち着くまでただ横に座っていてくれた後輩は私の話を聞くとそんなことを言う。

「誰もが不安なんです。それでも選択を迫られたら選んでいく。不安でも選ばなければいけないから。選べないなんて言っていられない状況だから」

 ゆっくりと、言葉を選ぶように話してくれる。

「先輩も進学、就職となったら選んできているんです。別に状況に流されたわけじゃない。選んでいるんです。そしてきっとですが、一番不安が少ない選択肢を自然と選んでいるんだと思います。つまり何が言いたいかというと、その時々で不安に勝っているんです。選べているということは不安に勝っているんです」

 繰り返す言葉はまるで言い聞かせるように聞こえる。

「大丈夫ですよ。先輩は不安に負けていない。きっとこれからも不安に負けそうになっても最後は勝てる。大丈夫です」

 最後の「大丈夫です」が胸にずんと来る。また泣きそうになり、

「ありがとう」

 とだけ返す。

「どういたしまして。それじゃあ僕は戻りますね。落ち着いたら戻ってきてくださいね。いきなりいなくなるのはなしですよ」

 空気を読んだのか後輩は去っていく。その姿が見えなくなった途端に涙があふれ出した。泣いているというのになんだか温かい。

「不安に勝てている」

 その一言でようやく一歩踏み出せそうな気がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不安は勝てない シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る