第41話 星見の国で勇者と名乗るのだ

 ライトダーク王国は、星見の国。

 なので、町のあちこちに星の意匠が施されているのだ。


「家の屋根に星の飾りがあるんですね! かわいいー」


「ありゃあ楽しいのじゃー! 国中あんななんじゃのう」


 うちの女子チームがはしゃいでいる。

 星の意匠というのは、丸い金属の板から、ほうぼうに光を現す棒が飛び出した形をしている。

 この棒の数や長さ、位置は自由らしくて、家によって違っていて面白い。


 中には、窓まで星型にしている家まである。


「以前通過した時は、観光気分ではなかった。だがこうして心穏やかな時に訪れると、なんとも趣深い国だな」


 ジュウザが笑っている。

 確かに。

 国中が星で溢れてるなんて、メルヘンな王国だ。


 とりあえずは用事を済ませるべく、この国の冒険者ギルドへ。

 冒険者としての登録装置はどこも一緒で、よく分からない機構でつながっている。


「はい、お隣の国から来られたエクセレントマイティですね。……って、Aランクパーティー!? こんなの、どう考えてもあちらの国でも特別扱いされるランクじゃないですか! どうしてこちらに来たんですか?」


 ギルドの受付担当なお嬢さんに疑問を抱かれた。

 ここは、エクセレンが素直に返答するのである。


「実はボクたちは勇者パーティーなので! この間の空から落ちてきた赤い星を落としたら色々あって、それでこっちに来たんです!」


「はあ、勇者パーティーですか……。勇者……。勇者……?」


 受付嬢がエクセレンをまじまじと見る。

 エクセレンはニコニコしながら対峙している。


「今、国から勇者を名乗る者はいったん城まで通せと連絡が来てるんですよね。こちらで宿を紹介するので、そこに滞在していてもらえます?」


「はーい。マイティ、それでいい?」


「いいぞー」


 宿まで斡旋してくれるとは。

 いたれりつくせりじゃないか。


 わいわいと紹介された宿に向かった。

 そこも、あちこちに星の意匠が施されたメルヘンチックな建物である。


 二室取って、すぐに飯にした。


「星見の国は海がない。だがその分、里の幸に満ちているぞ。焼き物、煮物がどれも美味い」


 ジュウザから紹介されて、おすすめだというメニューを幾つか注文した。

 山盛りの煮豚とか、豚を腸詰めにして焼いたものとか、野菜たっぷりスープとか。


「豚肉が名物か」


「豚は何でも食べるゆえ、育てやすいのであろう。ではいただこうか」


「豚肉大好きなのじゃー!」


「ボクもー!」


 ガツガツと食い、地元のエールを飲む。

 おお、山一つ越えただけなのにエールの味が全く違う。


 毎日ちょっとずつエールの味は違うんだが、もっと大本の味が異なっているのだ。

 これが土地の味というやつなんだろうな。


 気がつくとジュウザが妙なものを飲んでいる。


「なんだそれは」


「とうもろこしのヒゲで作った茶だ。覚醒効果はないが、飲んでいてホッとするぞ」


「本当に茶が好きなやつだな」


「お主は酒を飲みすぎだ」


「かも知れん」


 わっはっは、と笑い合う。

 このパーティーで、酒を飲むのはほぼ俺一人だしな。

 ディアボラもいける口らしいが、せっかくなら腹に溜まるものが飲みたいと言って、大抵はエクセレンと一緒にミルクを飲んでいる。


 そんなわけで、どんどん食事が進んだ。

 ライトダーク王国の飯は美味いな。

 ガッツリ食うタイプの食事だ。


 次はどうしよう、どこに行くか、と話し合っていたら空になった皿がどんどん積み重なっていく。

 俺とエクセレンとディアボラがとにかく食うからな。


 すると、宿の扉を開けて兵士らしき連中がやって来た。


「ここにエクセレントマイティの一行はいるか?」


「俺たちだ」


 呼ばれたのですぐに答えた。

 すると兵士は、俺たちを見回した後、ホッとした顔になる。


「風格があるぞ」


「さすがはAランクだな……。前の勇者なんか、そのままペテン師だったからな」


 なんだなんだ。


「ああ、済まないな。陛下がお呼びだ。城まで来てもらおう」


 ギルドで言っていた話であろう。

 この国は行動が早いな。


 ということで、俺たちはお招きに与り、王城へ向かうことになったのである。

 ライトダーク王国の城は、間近で見ると青く塗られた外壁に、星をイメージしたのか丸い模様が大小多く描かれた印象的な姿をしていた。


「これ、夜空をイメージしているんじゃな」


「その通り。ライトダークは星見の国。星空こそが、我らの誇りなのだ」


 兵士が嬉しそうに返してくる。

 礼儀がきちんとした兵士だ。

 それなりに地位があるやつかも知れないな。


「ここは……星にゆかりがあるのなら、メテオの儀式魔法が使いやすそうじゃのう! 使えば国土がなくなるが!」


「ディアボラが物騒な話をしているぞ」


「儀式魔法の使い手のサガというものじゃ」


「実際、星見の国のあるこの土地は山の上にあったらしいな。だがここに、魔王星の如き星が落ちた。山は砕け、巨大なくぼみとなり、そこに草木が生い茂った後に人間がやって来た。そしてこの国が生まれたという話だな」


「ほえー、ジュウザは物知りですね!」


「我が国の事をよく知っているな!」


 エクセレンと兵士が並んで嬉しそうである。

 国に溶け込むなら、その国を褒めるに限る。

 俺たちの反応で、星見の国の兵士たちはすっかり打ち解けてくれたようだ。


 いかにこの国が素晴らしいかとか、どこそこを見に行くべきだ、みたいな話をしてくれる。

 ありがたい。

 これでこの国の情報が手に入る。


 そうすると、冒険者としても仕事がしやすくなるのだ。


 会話をしている内に、謁見の間が近づいてきた。


「我々はここで」


「無礼の無いように!」


「おう! 色々ありがとうよ!」


 兵士たちに手を振り別れ、俺たちは眼前で開いていく扉の先を見つめた。

 玉座と、そこに腰掛けた王。


 左右に居並ぶ家臣たち。

 そして一人だけ。

 俺とそいつの目が合った。


 そいつは、星の模様が描かれたローブを纏う、片眼鏡の男だったのだ。

 星のローブの男は、俺たちを見てニヤリと笑った。

 なんとなくだが、こっちでも一騒動起きる予感がする。

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