第4話 村一つをカバーして守るのは初めてだ
家を包囲しているゴブリンを発見。
どうやら中には子どもがいるようだ。
「マイティさん、あれまずいですよ!」
「おう。任せとけ。一流のタンクってのは、敵の注意を惹きつけられるから一流なんだ」
俺は敵を目掛けて、一歩踏み出した。
その時の光景を、彼は一生忘れることはないだろう。
突然村を襲ってきた恐ろしいゴブリンの群れ。
すぐに冒険者たちがやって来て、迎撃に当たった。
だが、相手はただのゴブリンではなかったのだ。
恐ろしい技を使い、冒険者たちをあっという間に無力化し、冒険者たちの武器を奪い、ゴブリンたちはさらにその脅威度を増した。
家々は次々に破壊され、人間は外に引きずり出され、なぶり殺される。
恐ろしい悲鳴が幾つも上がった。
それは彼の耳に染み付いて離れない。
そう言えば、隣人を助けようとして外に飛び出していった父親は戻ってこなかった。
もしや、恐ろしいゴブリンにやられてしまったのか。
そして今。
扉を外から叩く音。
窓が破壊される音。
ゴブリンたちが中に入ってこようとしている。
自分の番だ。
ついに、自分が殺される番がやって来たのだ。
彼は、幼い子どもだった。
それでも、寝物語に聞かされたゴブリンのことは知っていた。
怖いモンスターではあるものの、物語の中では冒険者たちがいつも退治してしまっていた。
だが現実はどうだろう。
冒険者たちが、ゴブリンによって退治されてしまっている。
「たすけてえ、たすけてえ」
彼はか細い悲鳴を上げた。
テーブルの下に隠れてはいても、すぐにゴブリンは見つけ出してしまうだろう。
「たすけてえ、たすけてえ」
だが、助けを求める声を止めることはできなかった。
誰かがこの声を聞いて、助けに来てくれるかもしれないから。
寝物語に聞いた、ゴブリンを倒せる本当の冒険者が来てくれるかも知れないから。
果たして、彼の願いは、叶った。
「今助ける!!」
ビリビリと周辺の空気を震わせるような大声が響き渡った。
家を破壊していたゴブリンが、一斉にそちらを向く。
それはまるで、魔法のような光景だった。
破れた窓の向こうに見えるのは、大きな盾を持った鎧兜の人物。
彼が大声を放ったのだろう。
周辺一帯にいたはずのゴブリンたちが、まるで明かりに引き寄せられる夜の羽虫のよう。
一斉に鎧兜目掛けて集まっていったのだ。
それぞれが、恐ろしい技を使うゴブリンたちである。
回転する刃が、急所を狙う飛び道具が、はたまた背後からの一撃が、鎧兜の人物を狙った。
だが……!
「ふんぬっ!! ゴブリンにしてはなかなかいい攻撃だ! だがしかし!! この俺の守りを抜くことはできんようだな! ダメージはゼロだ! ゼロだぞー!!」
大盾を振り回し、ゴブリンの攻撃を連続して受け流していく鎧兜の人物。
野太い声から、男だとは分かる。
無数のゴブリンにたかられ、全身に刃や棍棒、槍やナイフを叩きつけられながらも、その全てを一撃の有効打もなく、受け流し、食い止め、いなす。
ゴブリンたちは彼に釘付けだ。
「ぼ、ぼうけんしゃさんだ……!!」
彼の目には、彼こそがゴブリンを退治する、本物の冒険者だと映った。
そしてさらに彼は、目を見開くことになる。
鎧兜の男の背後から、金髪の女の子が出てきたのだ。
彼女は、男への攻撃に夢中なゴブリンの後ろから忍び寄り、首筋にナイフを突き立てた。
「ウグワー!?」
堪らず倒れて絶命するゴブリン。
手にしていたのは棍棒だ。
これを拾い上げて、少女は笑顔になった。
「やった! またパワーアップしちゃいました! そおれ!!」
フルスイングした棍棒が、ゴブリンの一匹の頭をかち割る。
そして落とした投げナイフを、嬉々として拾う少女。
これを、手近なゴブリンの顔面目掛けて投げつけた。
怯んだゴブリンを、棍棒と、どこから取り出したか手斧を使って滅多打ちにする。
「ぼ、ぼうけんしゃさんだ……!?」
「いいぞエクセレン! ゴブリン一匹を屠る度に、動きが良くなってくるな!」
「はい! なんかボク、要領が掴めてきました!」
ゴブリンたちも黙ってやられるばかりではない。
ないのだが……。
「相手は俺だぞ!!」
少女に注意を向けた瞬間、とんでもない大声で怒鳴りながら、鎧兜の男が盾を押し込んでくるのだ。
とても無視することなどできない。
先程無視したゴブリンが、男の突進を受けて屋根より高く吹き飛ばされたところだ。
前方の鎧兜、後方の少女。
驚くほどの早さで、ゴブリンはその数を減じていった。
後には無残なゴブリンの死体が転がるのみである。
「むっ、いかんな」
鎧兜の男が声を発した。
「どうしたんですか、マイティ」
「どうやらゴブリンシャーマンがいたらしい。村の外で、魔法を使っている!」
突如、空から巨大な炎の塊が降ってきた。
倒壊した家に降り注いだそれは、一瞬でそこを燃やし尽くしてしまう。
「ひええええ! あれなんですかあ!」
「ゴブリンシャーマンの精霊魔法だ。ファイアボールとか言ってな。だが、あれだけ大きなファイアボールは初めて見た。なかなか修練を積んだやつだ!」
「大変ですよマイティ! あんな魔法を連発されたら、村がなくなっちゃう!」
「ああ。俺たちの仕事も失敗になってしまう。だから、このタンクに任せろ!」
鎧兜の男、マイティは断言した。
「俺が防ぐ!! カバーアップっていう、仲間をかばう戦い方でな。だが……村一つをカバーするってのは初めてだな!」
「できるんですか!?」
「できるできないじゃない。やるんだよ!! 行くぞお!!」
再び、巨大な炎の塊が降り掛かってくる。
それは、この戦いを見守っている彼の家を目掛けて放たれていた。
「た、たすけ……」
目を閉じることもできず、彼は炎を見上げていた。
だがしかし!
「ふんぬうーっ!!」
まるで引き寄せられるように、炎の塊はマイティへと方向を変えたのである。
そして、家一軒を焼き尽くす炎が、マイティの巨大な盾と激突する!
吹き荒れる熱風。
「うわー!?」
エクセレンと呼ばれた少女の悲鳴が聞こえた。
「ぼ、ぼうけんしゃさん!」
彼は、熱風が収まった後、どうにか目を開いた。
そこには……。
天に掲げていた盾を悠然と降ろす、鎧兜の男の姿。
「いけたな! 人をカバーするのも村をカバーするのも変わらんな! 当然、ダメージはゼロだ!」
「やったあマイティ! じゃあボク、外のゴブリンシャーマンをやっつけてくるよ!」
「おう! 魔法は俺が引きつける!」
二人は声を掛け合うと、先程の魔法を放ってきたゴブリンの元へと駆け去ってしまった。
そしてすぐに、幾つかの爆発と、「ダメージはゼロだ!」という咆哮が聞こえ。
「ウグワーッ!?」
ゴブリンシャーマンの断末魔とともに、全てのゴブリンは倒されたのである。
彼はこの日の光景を、絶対に忘れないだろう。
生き残った村人たちが、家から飛び出してくる。
お互いの無事を喜び会い、無残な姿で街路に転がるゴブリンに震え上がる。
そして、嬉々としてゴブリンの得物を回収していく二人組の姿に、首を傾げた。
「あれが……ほんとうのぼうけんしゃさん……!! ううん、きっと、もっともっとすごいひとたちだ!」
図らずも、彼こそ、世界で一番最初に勇者と最強のタンクを、そうと認識することになったのだった。
パーティー名『エクセレントマイティ』
ランク:D
構成員:二名
名前:エクセレン
職業:エクセレントファイター
Lv:3→6
HP:28→59
MP:16→35
技 :二刀流スピン クイックドロー バックスタブ
魔法:マジックミサイル(下級) ヒール(下級) ライト(下級)
覚醒:未
武器:鉄のナイフ 鉄のトマホーク (銅の剣)(トゲ付き棍棒)(鉄の槍)
防具:革の服 ゴブリンの肩アーマー
名前:マイティ
職業:タンク
Lv:85
HP:1200
MP:0
技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)
マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)
ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級)
魔法:なし
覚醒:なし
武器:なし
防具:熟練のプレートアーマー、熟練のビッグシールド
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