第3話 明らかに強力過ぎるゴブリンとそれに気付かない二人
それはただのゴブリンではなかった。
ファステス村を襲ったゴブリンの襲撃は、最初はよくあるような事件だと思われた。
村人たちにも武器の心得がある者がおり、ゴブリン迎撃に当たった。
だが、ゴブリンは彼らを一瞬で蹴散らした。
ただのゴブリンとは違う体格。
明らかに一回りは大きい。
そして俊敏な動き。
まるで訓練された戦士のようだ。
重い一撃。
大型肉食獣の突撃のようだ。
そして戦術。
複数の方向から進入したゴブリンは、たちまちのうちにファステス村の奥深くまで浸透し、男たちを背後から襲った。
瞬く間に、ゴブリンに対抗する手段を失ったファステス村。
決死の思いで、一人の若者が馬を駆って飛び出す。
彼は昼夜を問わず駆け、王都に辿り着き、ゴブリン駆逐の依頼を出すと、そのまま馬とともに気絶した。
ゴブリン襲撃。
村一つが危機的状況になるということは、それなりの数であろうと判断された。
ギルドは自動的に、依頼の危険度をDランクと判定。
依頼受理、掲示と同時に、それはとあるパーティによって受注された。
エクセレンスマイティ。
できたてほやほや、二人組のパーティである。
その他、数カ所で冒険者達が依頼を受注した。
早いものはその足で、ファステス村に向かっている。
冒険者ギルドは、ゴブリン程度の脅威ならば問題ないと判断。
この依頼は達成予定とし、問題の追求を止めた。
かつてこの世界に魔王が現れてより千年。
魔王の降臨を監視し、対応するために作られた冒険者ギルドシステムは、長い平和の中で確実にその機能を錆びつかせていっていた。
「マイティ、こんなにゆっくりでいいんですか?」
「いいんだよ。こういう依頼は複数のパーティが受注するシステムになってる。俺たちは頭数も少ないし、お前さんは今まさに鍛えてる最中。おこぼれのゴブリンを狙うくらいでちょうどいい」
「そんなもんですかねえ」
「エクセレン、この間、角うさぎに殺されそうになってたの忘れた? 鍛えなくちゃだ」
「そうでした」
すぐに反省できるところは偉いな、エクセレン。
だが、あっという間に強くなってもらわれると、俺がまたお役御免になってしまう。
うーん、難しいところだ。
長い間の冒険者ギルドの活躍で、人間社会を脅かすモンスターの脅威は減ってきている。
その間に、世界は守るよりもまず攻めて、敵を倒せという方向に進んできたわけだ。
かつて俺がいたフェイクブレイバーズは、ほぼ全てのモンスターを初手で殲滅できる。
大陸最強のパーティと言っていいだろう。
確かに俺の出番は無いわな。
ならば俺は、コツコツとエクセレンみたいなのを育て上げて、若手冒険者の手伝いをしていくだけだ。
俺のスキルも多少は役に立つだろうしな。
恐らく最後発でやって来た俺たちのパーティ。
すっかり村は片付いているだろうとおもったのだが。
どうやら状況は違っていた。
「マイティ。なんか様子がおかしいんですけど。村が荒れ放題というか、
「あれえ? Dランクとは言え、ゴブリン相手だ。早々遅れを取ることは無いと思うんだけどな」
俺たちは大して金があるわけではない。
なので、トコトコと徒歩で村に入っていった。
「ボク思うんですけど、きっとゴブリンは魔王の力で強化されてて、見た目よりも強いんですよ。だからみんなやられてしまったんです」
「なるほど。魔王が本当に来るならありうるなあ」
俺は感心してしまった。
魔王が来るって分かってれば、エクセレンの言う通りになるかも知れないもんな。
俺が素直にうなずくので、エクセレンは感激したようだった。
「嬉しい……! 今まで、ボクの言うことなんかみんなバカにして聞いてくれなかったのに。マイティはなんでも聞いてくれて肯定してくれる……! すごく、ボクの中の自己肯定感が上がります!」
「そうかそうか、それはいいことだぞ!」
俺は笑いながら、背負っていた大盾を構えた。
「来るぞ」
次の瞬間だ。
大盾目掛けて、複数の飛び道具が叩き込まれた。
だが、タンクである俺にこんな攻撃が通用するはずがない。
飛び道具は全て弾かれ、あるいは自らの勢いで粉砕されてこぼれ落ちる。
「なんですか!?」
「襲撃だ。ゴブリンどもめ、待ち構えていたな。だが、問題ない。俺がすべての攻撃を防ぐ。エクセレンが倒す。これで行こう。倒し続けているうちにエクセレンも強くなるだろ」
「はい!」
攻撃を防ぎ、防ぎ、防いで防いで防ぐ。
ゴブリンたちはムキになって俺に攻撃を集中する。
だが悲しいかな、「そんなんじゃ、ダメージはゼロだ」
時折、カッとなって飛び出してくるゴブリン。
これを、横合いから飛び出したエクセレンが迎撃する。
「マジックミサイル!!」
「ウグワーッ!?」
下級の魔法とは言えど、不意討ち気味に喰らえばかなりの威力だ。
ゴブリンがもんどり打って倒れたところを、エクセレンが銅の剣で止めを刺した。
「あれっ、エクセレン。ゴブリンの武器、鉄のナイフじゃないか?」
「ほんとだ!! いただいておきましょう! やった、二刀流だ!」
「パワーアップしてしまったな」
ほくほくする俺たち。
「エクセレンもそろそろ、肉を貫き骨を断つ感覚に慣れてきたか?」
「はい! ボク、田舎では家畜の屠殺とかも手伝ってたんで、この感触はそこまで嫌じゃないです」
「いいな。強くなれる素質があるぞ。やたらと生物を殺す事に忌避感があると、それだけで死に一歩近づくからな。おっと!」
またゴブリンだ。
飛び上がって、竜巻のように回転しながら武器を叩きつけてくる。
見たことがない攻撃だ。
だが、盾で受け止めて弾いた。
「すごい技だな……。ダメージはゼロだが。エクセレン」
「はいっ! 二刀流! とわー!!」
弾かれて転がったゴブリンに、エクセレンが馬乗りになる。
そして頭と胸を、銅の剣とナイフで突き刺す。
「ウグワーッ!!」
ゴブリンは死んだ。
「はわわわわ……。マイティ、このゴブリン、鉄製の手斧を持ってます!!」
「銅の剣から、手斧とナイフの二刀流にパワーアップしてしまったな……。まいったな、美味しい依頼じゃないか」
「ほんとです!」
俺たちがまたもほくほくしていたら、横合いで倒れている冒険者を発見した。
胸が上下している。
生きているな。
「大丈夫ですか!!」
早速駆け寄り、ヒールの魔法を使うエクセレン。
「うう……。気をつけろ……。奴ら、ただのゴブリンじゃない……。一匹一匹がスキルを使ってくるぞ……! 仲間はみんな、やられた……!! これは……Dランクの依頼なんかじゃない……!! ぐふっ」
死んでしまった。
気になる遺言だった。
「あうう、やっぱり初級のヒールじゃダメですよね……。ボクも沢山の人を救えるように、強くならなくちゃ!」
「そうだな。俺も手を貸すぞ」
「はい、マイティさん! 頼りにしています!」
俺たちは死んだ冒険者に軽く祈りを捧げた後、村の奥へと向かうのだった。
パーティー名『エクセレントマイティ』
ランク:D
構成員:二名
名前:エクセレン
職業:エクセレントファイター
Lv:2→3
HP:20→28
MP:9→16/7
技 :二刀流スピン(予約中)
魔法:マジックミサイル(下級) ヒール(下級) ライト(下級)
覚醒:未
武器:鉄のナイフ 鉄のトマホーク (銅の剣)
防具:革の服
名前:マイティ
職業:タンク
Lv:85
HP:1200
MP:0
技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)
マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)
ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級)
魔法:なし
覚醒:なし
武器:なし
防具:熟練のプレートアーマー、熟練のビッグシールド
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