第18話

 さて、今日は臨時の全校集会が行われることになった。

 理由はまだわからない。

 とにかく、今はこの学園の全生徒が講堂に集まっていた。


 先生が登壇して、話を始めた。

 いったい何の話だろうと、全生徒が耳を傾ける。


「ええ、今日は、皆さんに残念なお知らせがあります。この学園の生徒である、マーシー・オバーフさんが、何者かによって、いじめを受けているということが発覚しました」


 先生の言葉を聞いて、全生徒がざわめき始めた。 

 えっと、マージーが、いじめを受けている?

 彼女はいじめられる側ではなく、いじめる側だと思うのですけれど……。

 それにしても、彼女をいじめるなんて、いったい誰が……。


「今日は、そのことを皆さんに伝えるために集まって頂きました。もちろん、いじめている人物は、今すぐここで名乗り出ろ、というつもりはありません。しかし、あとで私のいる部屋まで来ていただきたいと思っています。どうか、いじめている人は自分が何をしているのか、自覚してください。マーシーさんは、傷ついています。私は、大変残念に思っています。まさか、この学園でいじめが行われているなんて。しかし、君たちはまだ若い。やり直すチャンスは、いくらでもあります。どうか、正直に名乗り出てください。いじめている人はあとで私のいる部屋に来ると、信じています」


 先生の話は終わった。

 皆、驚いている様子である。

 私も驚いていた。

 あのマーシーが誰かに虐められるなんて、信じられなかった。

 しかし、先生がそう言っている以上、事実と受け止めるしかない。


 先生が降壇しようとしている。

 これで全校集会が終わりなのかと思った。

 しかし、ある人物が登壇してきたのである。

 その人物は、全校生徒に語り掛けた。


「あとで先生の部屋へ名乗り出るなんて、生ぬるいです! 今すぐここで、私をいじめた犯人が誰なのか、明らかにするべきだと思います!」


 登壇して全生徒に語り掛けたのは、マーシーだった。

 いったい、何を考えているのだろう。

 こんなことしたら、その虐めていた人物は、名乗り出ようなんて思わない。

 いじめられていたことには同情するけれど、彼女のやり方は、公開処刑のようなものだ。

 もちろん、いじめていた方が悪いのだけれど、このやりかたは、あんまりである。

 

 先生も、こんなことをするつもりはなかったのだろう。

 この展開は予想していなかった様子である。

 マーシーの行動を見て、明らかに驚いている。

 彼女の暴走を受けて、生徒たちはさらにざわめき始めた。

 いったい、彼女をいじめていた人物は誰なのか、そのことに関心が向けられているようだ。


「今ここで、私をいじめていた人物が誰なのか、発表しようと思います!」


 彼女の暴走は止まらない。

 しかし、彼女をいじめている人物が誰なのかは、私も気になっていた。


「私をいじめていた人物は、そこにいるカトリーです!」


 マーシーが私を指差す。

 全生徒の視線が、一斉にこちらを向いた。


 ……はい?

 私ですか?

 いえ、私はそんなことしていませんよ。


 むしろ私は、いじめる側ではなく、いじめられている側なのですけれど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る