第19話

 注目の的となった私は、困惑していた。

 いったい、どうして私がマーシーをいじめなければいけないのか。

 そんなことをする理由がない。

 私はいじめなんてやっていないのに、彼女はどうして、いじめられているなんて言ったのだろう。


 考えられる理由が二つある。

 まず一つ目。

 それは、彼女の頭がおかしくなった場合である。

 ありもしない幻覚でも見ているのか、それとも単なる被害妄想なのかは知らないが、要は、彼女の勝手な思い込みである。

 まあ、この可能性は、限りなく低いだろう。


 そして二つ目の可能性。

 こちらが本命である。

 マーシーは大勢の前で私を陥れるために、嘘を言っているという可能性。

 まあ、十中八九これだろう。


 と、そんなことを考えていると、壇上に立っているマーシーが話し始めた。


「見てください、私の頬を! 右手の手のひらの跡が、くっきりと残っています! これは、今日の朝、カトリーに叩かれた時についた痕です! 彼女は、私を陰でいじめてよろこんでいる悪人なんです!」


 マーシーの涙の訴えに、全生徒の視線は再び私に集まった。

 なるほど、うまいやり方である。

 私は彼女を叩いてなんていないけれど、確かに掌の痕が、マーシーの頬にはある。

 まあ、自分で思いっきり叩いてつけた痕なのだろう。

 しかし、それを証明する方法はない。

 周りの人たちは明らかに、私を疑っている視線を向けている。


 私はいったい、どうすればいいの……。


 私は、弁解の言葉を述べようとした。

 しかし、震えて声が出なかった。

 周りの人たちに疑いの視線を向けられて、委縮してしまっていたのである。

 もう、どうしようもないかもしれない。


 そう思っていた時、一人の人物が声をあげた。


     *


 (※マーシー視点)


 まったく、いい気味だわ。

 カトリーはうつむいて、何も反論できずにいた。

 これで彼女は全生徒に、いじめをしている悪者という印象を与えた。

 さらに、これから学校から処分が下されるだろう。


 退学になれば申し分ないが、停学処分でも問題はない。

 既に彼女には、悪者の烙印が押されているのだから。

 停学が明けて学校に来ても、そこに彼女の居場所はない。

 当然、エリオット様とハワード様からも嫌われることになるだろう。

 あの二人は、彼女に失望したはずである。


 すべて、私の計画通り。


 これで、エリオット様とハワード様に引っ付いていたお邪魔虫は消える。

 私の恋路を邪魔するから、こんなことになったのよ。

 私の言う通り、早々に婚約破棄していれば、こんなことにはならなかったのに、馬鹿な女ね。

 これであの二人は、私のものよ。


 私は、勝利を確信していた。

 完全に生徒は、私の言い分を信じている。

 しかし、一人の生徒が声をあげた。


 それは、私の完璧な策略によってカトリーに失望したはずの、エリオット様だった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る