第12話
「あれ? 誰もいない……」
マーシーはそう呟くと、カーテンを閉めた。
そして、扉を開けて医務室から出て行った。
私はそのことを物音で察していた。
「ふぅ……、何とかバレずに済んだ」
私は大きくため息をついた。
さて、どうして私の元へ現れたマーシーは、私に気付かなかったのか。
もちろん、理由がある。
それは、私の影が薄いからだ。
という理由ではない。
それは、あまりに悲しすぎる。
ただただ悲しい。
目の前にいるのに気付かれないなんて、幽霊にでもなったかのようだ。
マーシーが私の存在に気付かなかったのは、私が隠れていたからだ。
彼女がカーテンを開けると察した私は、一瞬でベッドの下に潜り込んだのだ。
そのおかげで、彼女にバレることはなかったので、嫌がらせをされずに済んだというわけである。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。
「なんか、腕が、めちゃくちゃ痛いような……」
怖くて直視できないのだが、物凄く腫れているような気がする。
一瞬でベッドの下の潜り込むという、慣れないアクロバットをしたせいで、いつの間にか打ち付けてしまったらしい。
「あのぉ、先生、いませんかぁ?」
呼びかけてみたが、返事はない。
どこかへ行っているようだ。
帰ってくるのを待つか、それとも探しに行くか、私は迷っていた。
時間が経つごとに痛みが増してきているような気がする。
やはり、先生を探しに行って、早めに見てもらった方がいいだろう。
そう判断して医務室を出ようとしたとき、扉が開いて先生が入ってきた。
「あ、先生、ちょうど探しに行こうとしていたところだったんですよ」
「ちょっとあなた! どうしたのよ、その腕!」
「え、どうなっているんですか!? 怖くて自分では見ていないんですけれど……」
「ぐにゃんくにゃんになっている」
「えぇ!? そんなことになっているんですか!?」
「いや、言い過ぎた。でも、骨折はしているでしょうね。座ってじっとしていなさい。プロに見てもらった方がいいわ。誰か呼んでくるから」
「はい、わかりました」
医務室の先生というのは、プロではないのか。
そんな疑問が頭に浮かんだが、口にせず。
無駄口を叩いていられるほどの余裕がなくなるほど、痛みがひどくなってきた。
マーシーに目をつけられてから、怪我が多くなっているような気がする。
自業自得と言えるようなものもあるけれど……。
なんとか、彼女を退けることはできないだろうか。
それは、妹を傷つけられたハワードの願いでもある。
痛みに耐えながら、私はそんなことを考えていた。
しかし、のちに意外な突破口が見つかるのである。
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