第11話

 気が付けば、私はたくさんの木に囲まれた場所にいた。

 辺り一面は綺麗な緑の芝で、なかなかいい景色だった。

 周りには誰もいない。

 ここは、いったいどこだろう?


 誰かいないか、歩き回って探した。

 しかし、誰にも会わない。

 そもそも、私はどうしてこんなところにいるのだろう。

 全く見覚えのない場所である。

 今まで何をしていたのかも思い出せない。

 考えようとすると、頭の中に霧がかかったみたいになった。


 まるで、夢を見ている様に、ぼんやりとしていた。


 歩いていると、遠くに誰かいるのを発見した。

 私は、そちらへ向かって歩き始めた。


「あのぉ、すいません」


 私は彼に話しかけた。

 しかし、彼は私の声など聞こえていないかのように無視した。


「あのぉ! すいません!」


 私はさらに大きな声で彼に呼び掛けた。

 すると、なんと彼は何かに吸い寄せられているかのように、空に向かって上昇していった。

 なんだろう、これは……。

 所謂、超常現象というものだろうか。

 

 こんなの、現実では起こりえない。

 さっきから頭もぼんやりとしているし、まるで夢を見ているようだ。


 ……あ、夢だ、これ。


 そう考えれば、納得である。

 思い出した。

 私は階段から落ちて、後頭部を打ち付けて気を失ったのだ。

 だから夢を見ているのか。

 現実の私はいったいどうなっているだろう。


「あのぉ、すいません」


 とつぜん、うしろから声を掛けられた。

 振り返ってみると、目の前にゴルフクラブを持った中年の男性が立っていた。

 彼の足元には、ゴルフボールがある。

 彼は、ゴルフクラブを大きく振りかぶった。


「え……、あ、あの……」


 そして、フルスイングして放たれたゴルフボールが、私の顔面に向かって飛んできた。


 目が覚めた。

 叫び声を出したかはわからないが、現実の世界で目を覚ますことができた。

 ここは、どこだろう。

 私は、ベッドの上にいる。

 周りはカーテンで遮られている。

 あ、医務室だ、ここ。


 そうか、あのまま階段から落ちて気を失った私は、ここまで運ばれてきたのか……。


 となりのベッドから、声が聞こえてくる。

 誰かが話しているけれど、カーテンがあるし、声が小さいので誰かはわからない。

 ここへ来る前は、何をしていたんだっけ……。


 そうだ、気を失ったマーシーを運んでいたんだ。

 ということは、彼女もこの部屋にいる可能性が高い。

 よく聞いてみると、隣から聞こえてくる声は、ぶつぶつと何か恨み言を呟いているマーシーの声だった。


 彼女には何をされるかわからないので、顔を合わせたくない。

 私は一刻も早く医務室から出ようと思った。

 しかし、隣でカーテンを開けた音がした。

 マーシーだ。


 私のベッドの周りにもカーテンがあるので、彼女と私の間には、カーテン一枚だけしか存在していない。

 彼女は、このまま帰るのだろう。


 そう思っていたが、突然、私の目の前にあったカーテンが開かれた。

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