第10話
「はあい、ゆっくりでいいですからね。落ち着いて、一段ずつ降りてください。踏み外さないように慎重にですよ」
私は階段をうしろ向きで降りながら、二人を先導していた。
エリオットとハワードは横向きになって、担架に乗っているマーシーを運んでいる。
さすがに階段はきつそうである。
足元も見えずらいだろうし、負担も大きい。
意味があるかはわからないが、私は二人が足を踏み外さないか心配だったので、注意を促しながら先導している。
「いいですよぉ、その調子です。慎重に歩を進めてください。あなたたちが足を踏み外したら、その手に抱えている一人の女生徒が、人道を踏み外した行為をする恐れがあります。くれぐれも注意してください」
「なんでちょくちょくプレッシャーをかけてくるんだ……」
「やれやれ、困った人ですね……」
「はあい、口を動かす暇があったら、足を動かしましょう。くれぐれも、ゆっくりと、慎重にですよ。もし足を踏み外したら……」
と、そこで、私は違和感を感じた。
階段につけたはずの私の足が、宙に浮いている。
あらら……、あれだけ足を踏み外すなって二人に注意していたのに、もしかして私が踏み外しちゃった?
いっけない、私ったらドジっ子ね。
などと考えている間に、両足とも階段から離れていた。
エリオットとハワードが、驚いた顔をしている。
エリオットはともかく、ハワードの驚いた顔なんて初めて見た。
イケメンが驚いた顔というのは新鮮で、少し面白かった。
二人は私は足を踏み外したことに気付いたが、どうすることもできない。
なぜなら、マーシーが乗っている担架を持っているから。
二人のうちどちらかでも手を離すと、マーシーは無事では済まない。
そのことがわかっているから、二人とも私がピンチなのに、動くことができないでいた。
私とその女、どっちが大事なの?
というほど私は悪魔ではないので、彼らを責めるつもりはない。
責められるべきは、私の不注意と運動神経のなさだろう。
あぁ、今日は医務室に行かずに済むと思ったのに……。
医務室の先生に、私がドジっ子でないと思ってもらいたかったのだけれど、どうやら今日もお世話になりそうだ。
ひょっとして、お世話になるのは医務室の先生ではなく、葬儀屋の人だったりして……。
はは……、いや、まさかね、それはない……。
え……、ないよね?
そんなことを思っているうちに、地面が近づいてきた。
そして、地面と私の後頭部がランデブーしたところで、目の前が真っ暗になった……。
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