第2話

 (※マーシー視点)


 今日のところは、まずまずと言ったところかしら……。

 少し怒鳴って櫛を投げつけてやったから、効果はあったはず。

 すました顔をしていたけど、内心では私に恐れをなしていたに違いないわ。

 まったく、いい気味ね……。


 それも全部、私のエリオット様と仲良くしているのが悪いのよ。

 噂ではあの二人、一緒に住んでいるらしい。

 直接誰かに聞いたわけではない。

 私には、直接話すような友人が学園内にはいない。


 まあ、私はあえて一人でいるのだ。

 友人との会話なんて無駄だ。

 私には、そんなもの必要ない。


 そんなことより、あの二人だ。

 二人は仲がいいし、もし一緒に住んでいるのが本当だとしたら、間違いなく婚約している。

 それなのに、あの女、適当に誤魔化していた。

 それで私を欺いたつもりかしら。


 もし一週間以内に別れなかったら、宣言通り、痛い目に遭わせてやるわ……。


     *


「どうも、ありがとうございました」


 私は医務室をあとにした。

 出血は大したことなかったけれど、一応絆創膏を貼ってもらった。


「カトリー! 君がけがをしているって聞いたけど、大丈夫なのか?」


 慌てた表情で、エリオットがやってきた。


「大丈夫ですよ。ただのかすり傷なので、大したことありません」


「マーシーと何か言い合いをしていたと噂で聞いたけど、本当なのか?」


「ええ、まあ。言い合いというよりは、ただの言いがかりでしたけれど」


「それで、彼女が暴力を振るったのか?」


「櫛を投げられました。キャッチしようと思ったら、失敗してしまって……。でも、本当に大したことないので気にしないでください。あ、マーシーさんにこの櫛を返しておいてください。同じクラスでしたよね」


 私は彼に櫛を渡した。


「ああ、わかったよ。ついでに、彼女に注意しておこう。カトリーに手を出すなとね」


「いえいえ、そんなことしないでください。あまり事を荒立てたくないのです」


「でも、彼女は君を傷つけた」


「大したことありません。お気持ちだけで充分です」


「……まあ、そこまで言うのなら、今回は彼女を見逃そう。この櫛は彼女に返しておくよ」


「ええ、お願いします」


 エリオットが教室に戻るのを見届けて、私も自分の教室に戻った。


「あとはマーシーさんにすべて説明すれば、問題解決ですね……」


 でも、それが難しいかもしれない。

 彼女はこちらの話を聞かず、一方的に怒鳴るだけだからだ。

 もう少し社交性というものを身に着けてもらいたい。


 まあ、今回は許してあげたけれど、さすがに何回も許すつもりはない。

 まあ、たとえ私が許しても、エリオットが許さないだろう。


 さて、せっかく今回は許してあげたのに、一週間も経たないうちに、ある出来事がきっかけで、エリオットがマーシーに怒りを向けることになるのだった……。

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