第3話


 手を繋ぎながら森の中を順調に進んでいく蓮とルーの2人。

 都会の中に建つ病院で過ごしてきた蓮にとって、木に実っている果物や、遠くから聞こえる動物の鳴き声など感じるものの全てが新鮮で、あっちこっちに目移りしながら進んでいた。

 

 蓮はふと疑問に思ったことをルーに聞いてみた。


「ねえ、ルーっていつから記憶があるの?」


 ルーは顎に手をやりながら答える。


「うーん、なんといえば良いのでしょうか……。ぬいぐるみの状態で一緒に病院にいた頃からの記憶はあるのです。ただなんと言いましょうか、映像として覚えているだけ…とでも言いますか、意識というものは無かったんだと思うんです。先程いた場所で、蓮の『助けて、ルー』と言う声が頭に響いた途端、意識が覚醒した様な、そんな感じですね。」


「ふぅーん……。なんだかよくわかんないや……。あ!でもね、ルーがぬいぐるみじゃなくなったのは僕のおかげなんだよ!」


 そう言って蓮は自身の持つ能力について話し始めた。

 自身の持つエネルギー—蓮がアニメの知識から魔力と名付けた—と必要なモノを対価として配下仲間を創る能力『配下創造クリエイト・ファミリア』なのだと言う。

 細かいことを決めることはできないが、対価とするモノによってある程度の方向性は決まる様だ。


 蓮が自身の能力に気が付いたのは森を歩き始めてすぐだった。最初から知っていたかの様に自身の持つ能力と、その使いからが頭に浮かんできたのである。

 気になりはしたのだが、初めての森の中に興味を持って行かれ後回しにしていたのだ。


「———でね、ぬいぐるみのルーと僕の魔力でできたなのが今のルーなんだ!だからね、僕はルーのお父さんなんだよ!」


 ルーは嬉しそうに語る蓮の話を聞きながら思案する。

 蓮の話は本当のことだろう。何故ならルー自身も蓮のものとは異なるが、能力を持つものとして生まれたのだ。そう言う能力を持つものがいてもおかしくはないだろう。

 だか、蓮だけが特別で、自身も蓮の能力で生まれた存在であるからこそ能力があるのかもしれない。ましてや、蓮の能力はモノから生命を創造するという、正しく神の所業である。

 蓮の目覚めを待つ間に襲ってきた数匹の獣が炎を吐いたり、氷を生成したりしてきたため、ここが元の世界とは異なる世界である可能性は高いだろう。そして、もしかしたらこの世界の住人は皆その様な能力を持っているのかもしれない。

 とはいえ、蓮の能力がバレると厄介ごとに繋がる可能性は十分に考えられる。この世界のことをある程度把握するまでは能力の秘匿は必須なのではないか?

 そう考え、蓮に提案する事にした。


「蓮、説明ありがとう。蓮がお父さんなのかはとりあえず置いときましょう。それでなのですが——」


「あ、能力は他の人には隠しておこうって話だよね?大丈夫だよ!マンガで読んだことがあるんだ!人に知られると命狙われたりするんだよ。怖いよねー。」


 蓮はわざとらしく自分の体を抱きしめながら、ルーの言葉を遮りそう続けた。

 ルーは蓮の考え方がマンガやアニメに影響されている事に一抹の不安を覚えたが、自分の言いたいことは分かってくれているのだから良しとするか。と、思考を切り替えた。


 引き続き、色々なものに目移りしながらも森の中を歩いて行く2人。

 時折り巨大な狼や二足歩行で腕が4本ある熊など見かけたが、皆こちらに近づこうとするが、ビクリと動きを止め、直ぐに踵を返して奥へと消えていく。


「ねえ、ルー。皆んなすぐ逃げちゃうけどなんでかな?ルーが何かしてるの?」


「えぇ、こちらに来ない様に少し威圧して追い払ってます。」


「へぇー、そんなことできるんだね!そういえば、野生の動物は危険察知能力が高いってテレビでやってたなぁー。」


「蓮が魔力と呼んでいるモノを使った簡単な応用ですよ。相手に向けて少し強めに魔力を飛ばしてあげるのです。」


「なるほどなるほど……。魔力を飛ばす…魔力を飛ばす……」


 その場に立ち止まると、目を瞑り、うんうんと唸り出した蓮。

 それから数分間あーでもないこーでもないと何やら試していた。


「……やっぱり、よく分からないや。また今度にするよ。ルー、今度、お願いね?それよりお腹空いちゃった!さっきとった果物とか食べられるかな?」


「はい、任せてください。それでは、食事にしましょうか。蓮が眠っている間に取ったお肉もありますので、そちらも頂きましょう。」


 近くに腰掛けるのに丁度良さそうな倒木を見つけたので、蓮はそこに腰掛けた。

 道中見つけて取っておいた林檎に似た果物を齧りながら、ルーが肉を焼くのをみていた。

 

 ルーはどうやら魔力を使うのが上手な様だ。

 枝を組んだと思ったら、手をかざしただけで火をつけたのだ。

 火魔法、というものだろう。

 さらには、どこからともなくブロック状にカットされた肉が現れ、それを焼き始めた。

 これは、空間収納とか収納魔法とか言われる物なのかもしれない。


 自分にも何かできないかな?と思うものの、何をどうすれば良いのかはさっぱり分からない。

 ルーに聞いてみても、魔力を変質させてどうたらこうたらと説明されたが、それを聞いてもさっぱり理解ができなかった。

 なんだか狡いな、とは思ったものの、ルーが焼いてくれた肉——ルー曰く豚肉だそうだ——を一口食べてみると、そんな考えは吹き飛んでしまった。


「うわっ、美味しい!ルー、これすっごく美味しいよ!焼いただけなんだよね!?」


「はい、調味料も何もありませんから、焼いただけですよ。沢山ありますから、遠慮せず食べてくださいね。」


 病み上がりとは思えない勢いで、蓮はバクバクと肉を平らげていく。

 2人で食事をとっているうちに、日が暮れて辺りが暗くなってきたので、その日はそこで野宿する事となった。

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