三、

 僕は真っ直ぐに立ち、直線状にいる真紀さんを見る。


 真紀さんの方もじっと僕を見てくるので、僕も視線を外したらダメな気がしてじっと見つめ返す。それこそ一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく見逃すまいとじーっと。


「そんなに見たらぁー、緊張するからやめてーくださーい」


 理不尽だ……。


 真紀さんから大声で苦情を述べられ、僕は世の中の不条理なことを一つ知れた気がしてヘコむ。


 いじける僕は置かれて、真紀さんがつま先でよちよちと自転車と一緒に揺れて少しずつまえに進み始める。


 自転車に乗れているとは言えないが、初めて会ったとき比べればちゃんと座れて前に進んでいるので大きな進歩だと思うけど、真紀さんの目標は自転車に乗れることだからそれは黙っておくことにする。


 ヨタヨタと進みゆっくりと前進する。時々バランスを崩しそうになり、僕が反応すると真紀さんは無言で見て圧をかけてくる。


 僕は唇に力を入れて、なにも喋らないぞと強い意志を見せる。


「そんな怖い顔しないでー。やりづらいでーす」


 理不尽だ……。


 大声で言われ本日二回目の理不尽を心の中で呟く。


 そんな僕のことなど構わず真紀さんはよちよちと近づいてくる。


 そして━━


「ゴールです」


 額の汗を拭う真紀さんが満足げにゴールの言葉を口にする。


「う、うん」


「なにか御不満ですか?」


 僕の反応が気に食わなかったのか、眉をひそめた真紀さんが僕をじっと見上げてくる。


「あ、いや。確かに凄い進歩なんだけど前の真紀さんならここで満足しないって言うか、えーっと……立ち止まっている暇なんてないんですよ! 分かってます? みたいなことを言われるかなと思って気を引き締めてみたんだけど」


「私のことなんだと思っているんですか」


 頬を僅かに膨らませて不満を露わにする真紀さんをじっと見つめる。


「かわいい……」


 心の声が漏れる。


「なっ⁉ なにを言って、言ってるんですか⁉」


 目の前で慌てふためく真紀さんを見て現実に帰ってくるが時すでに遅し。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る