二、
「ゴールってどういうこと?」
僕を指さしてゴールと言う、真紀さんの真意が理解できない僕は素直に尋ねる。
目を逸しながら小さくボソボソと呟く真紀さんの声を聞くために近づくと、目だけでなく顔まで逸らされてしまう。
「尊さんが立つ。私が向う」
単語で説明された僕は頭をフル回転させて思考の海に沈む。
━━ゴール
━━尊が立つ
━━真紀さんが向かう
……!?
思いのほか思考の海は浅かったみたいで、すぐに理解した僕は答えを述べる。
「つまり真紀さんが自転車で棒立ちの僕に突進するってこと?」
「言い方! それじゃ私が悪い人みたいじゃないですか!」
「ごめん、ちょっと誇張気味に言いました」
「尊さんそういうところありますよ! そして無駄に素直に謝るとこがズルい」
ムッとした表情で僕を見る真紀さんの顔が可愛くてつい頬が緩む。
「なんで笑っているんですか! 私は怒ってますよ」
「ごめんね」
「むぅ〜そうやって素直に謝ると、ますます私が悪者になるじゃないですか。いいですか、尊さんをゴールにして私が自転車で向う。苦労して尊さんのところへたどり着けると嬉しいわけです。だから頑張れるという作戦です!」
「僕のところへたどり着くと嬉しい?」
気になった言葉を復唱すると、真紀さんがポンっと音をたて顔を真っ赤にしてしまう。
「ちっ、違います! 嬉しいというのは達成感! ゴールまで着いた達成感のことを指します。決して尊さんのところに着けて嬉しいとか、だから頑張れるとかじゃないんですよ」
「そっかぁ……残念」
真紀さんが到達するためのゴールとして僕が役に立てるなら嬉しいなと思った手前、結構残念な気持ちになった僕は素直に気持ちを口にしてしまう。
「な、なななな、残念って。その、えっと……じゃあ、じゃあいいですよ。尊さんがゴールで頑張ってあげますから」
再び赤くした顔を逸して半ばヤケクソ気味に言う真紀さんは、出会ったころには想像もつかなかったほど表情豊かで、そんな姿を見れることが嬉しくて思わず顔が緩んでしまう。
「むぅぅ、そんな顔するぅ……ズルいんですよ本当にまったくもう」
怒っているのに全然トゲのない口調で真紀さんは文句を言う。
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