地面から足が離れた10秒間は心も浮かせてしまう
一、
いつもの河川敷で、自転車の荷台に手を置き僕はふらつく真紀さんを支える。
「持っています? ちゃんと持ってますか?」
「うん、ちゃんと持っているよ」
「そう言って突然離すのとかなしですよ」
「しないよ、そんなこと」
いつものやり取りから僕たちの練習は始まる。
両足を広げて、ヨロヨロする真紀さんを僕は支えて走るわけだが、正直これで乗れるようになるのか分からない。
でも、足をパタパタさせながらバランスをとったり、両足で地面を軽く蹴りながら前に進んでみたりする真紀さんは、前よりも地面に足をつけていない時間が増えた気がする。
「ねぇーどうやったら乗れるようになりました?」
ブレーキをかけ止まった真紀さんが振り返って僕に尋ねる。
「どうだったかなぁ~。それこそ、離さないでよってお願いしてたのに実は父さんが手を離していたってパターンだった気がする」
「それはダメです。たまたま上手くいっただけで、失敗したらトラウマと、不信感が残る方法だと思います」
両手でバツを作り、咸峰家の成功例を全力で否定してくる。ただ、ついこの間までの強い物言いではなく、どこか柔らかい感じに否定はされても嫌な気持ちにはならない。
「そうだね、じゃあどんな感じだったらいけそう?」
「どんな感じとは?」
僕の質問に首を傾げる姿が可愛いとか思いながら、僕は言葉を続ける。
「前のバスケットみたいに勝負するとか、楽しんでやれる感じだったら真紀さんがもっと頑張れるかなって」
「楽しく?」
「僕が見た感じだけど真紀さん前よりもバランスとるの上手くなってると思うんだ。だからここでもう一押しすればコツを掴めると思うんだけどな」
僕の意見に考え込んだ真紀さんを僕は待つ。
しばらくして遠慮がちに僕を見た真紀さんは、これまた遠慮がちに僕を指さす。
「ゴール」
「はい?」
全然予想していなかった言葉が真紀さんの口から出てきて僕は、上ずった声で返事をしてしまう。
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