十一、
「ってここで入れちゃうんですか」
「市川さんの言う通り、目標があったら集中できたよ」
ジト目で見る私に対し咸峰さんは嬉しそうにてへへと笑う。
「まあ、いいです。私が入れれば振り出しなんですから」
咸峰さんのシュートに見惚れたのも束の間、すぐにやって来た現実に私は動揺しながらも冷静を装ってゴールの前に立つ。
色々な角度からゴールを見てみるが正直なにが違うのかも分からないので、結局正面に立った私はボールを頭の上に掲げ、さっき見たシュートの真似をする。
「あっ」
イメージではスッと手から離れるはずのボールは私の掌を転がって下に落ち、同時に私の口からも声がもれる。
ドンドンっと元気よく跳ねながら転がっていくボールに笑われる私は、ポカンと開けた口のまま咸峰さんと目が合う。
「ぷっ」
思わず吹き出して、慌てて口を押える咸峰さんの姿に私は顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。
固まる私に、ボールを捕ってきてくれた咸峰さんが、ボールを差し出す。
「今のはノーカンってことで」
「うっ……うう。いえ、勝負は勝負です。私の負けです」
シュートを決める自信がないのはもちろんだが、正直恥ずかしくてもうやりたくない私は潔く負けを認める。
「というわけで、咸峰さんのお願いをどうぞ」
「えっと、いいの? どうしようかなぁ……」
考える咸峰さんの口から何が飛び出すか分からない私は身構えてしまう。自分で勝負を持ちかけておきながら不安になる私は、咸峰さんが何をお願いするかドキドキして待つことになる。
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