十、
「お願いってなにを?」
「それは秘密です」
困惑する咸峰さんに私は当然と言わんばかりに胸を張って、さも自信あり気に振る舞っているが心の中の私はバタバタして大混乱中だ。
なんでこんなことを言ってしまったのかと後悔しつつも、こうなったら突き通してやると覚悟を決める。
「私だけってのはフェアーじゃないので、お互い勝負をしてゴールを決めた方のお願いをきくってのはどうです?」
「お願いを賭けて勝負ってこと?」
「ええ、こういうのは勝負してこそ面白いものじゃないですか?」
「う、うーん。まあ市村さんが言うことは分かるけど、その僕の方が有利にならない? 一応現役でバスケットしてるわけだし」
「そ、そんなことありません。お互い二回ともシュート外していますし、いい勝負できそうな気がします」
私のよく分からない強引な理論を前に首を捻りながら悩んだ挙句、咸峰さんは頷く。
「じゃあ、僕はスリーポイントのライン……えっと、あの線からシュートを打つから、市村さんはどこからでも打っていいってのはどう?」
「ハンディですか……いいでしょう。では勝った方のお願いをきくってことで勝負しましょう」
なぜか上からの目線の私に咸峰さんは優しく微笑む。
「うん、分かったよ。確かに目標があった方が集中できそうだね」
「ち、ちなみに咸峰さんはなにをお願いするつもりですか?」
ふとよぎった不安に思わず尋ねてしまう。私は教えないとか言ったくせに、相手に聞くなんて卑劣極まりない行為にもかかわらず咸峰さんは怒ることもなく腕を組んで首を傾げる。
「いきなりだから思いつかないけど、あとで考えるよ」
「そ、そうですか。では、咸峰さんからどうぞ」
「僕から? 分かった、じゃあやるね」
軽くドリブルをしながらシュートを打つ線のところまで移動すると、シュートの構えをする。
さっきよりも結構離れているなと思っている間に咸峰さんの手から離れたボールは綺麗な孤を描いて、リングにも当たらずスッとゴールの輪をくぐりネットの擦れる音だけを残し床に落下する。
「きれい……」
もの凄く綺麗なフォームから放たれたシュートに見とれた私の口から自然と言葉がこぼれる。
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