九、

 私と咸峰さんはボールを中心にして、目を合わせずにぎこちない動きでバスケットのシュートの練習をする。


「えーっと、左手はこっちで⁉ ご、ごめん」


「い、いえ大丈夫ですっ!」


 私の左手と咸峰さんの右手が触れお互いビクッとして、ドギマギしながら片言で言葉を交わす。そんな状態なのでまともに教われるわけもなく、最終的に「普通に投げてみようか」となるわけである。


「えー、こ、こう?」


 頭の上に掲げ、疑問形で投げたボールはゴールとは全く違う壁の方へ力なく飛んですぐに床に落ちてしまう。跳ねるボールを追いかけキャッチした咸峰さんが戻ってきて私にボールを手渡してくれる。


「もう一回やってみます」


「うん」


 今度はボールを両手に持って下から上に向け投げる。


 力なく孤を描いたボールはすぐに床でバウンドし転がっていく。すぐさま追いかけ取ってきて私に手渡してくれる咸峰さんの姿を見てつい口から言葉がポロリと出る。


「なんか可愛い」


「か、可愛い⁉」


「あ、いえ……そのボールを捕ってきてくれる感じがその……」


 途中まで言って「犬みたいです」と言うのはあまりにも失礼だと思った私が口ごもっていると、咸峰さんは気づいたらしく困った感じで笑う。


「ま、まあ可愛いって言われたのは初めてだけど、褒められているから……ね?」


「え? あ、そうですね」


 察してくれ強引に話しを良い方向に持っていって会話を締めた峰さんから受け取ったボールを見つめる。今度こそ入れてやると意気込んでゴールを見た私は、ふと思いついた言葉を口にしてしまう。


「もしも、このシュートが入ったら私のお願いをきいてくれませんか?」


「お願い?」


「はい」


 笑顔で応えながら、口に出した言葉に後には引き返せないと、私の胸の中にある心臓の鼓動が激しくなる。

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