七、
バスケットボールを抱きしめる私の前で、咸峰さんがストレッチをして、軽く数回ジャンプする。
それだけの動作なのにスポーツをやっている人の動きは、違うんだなと感じられ感心してしまう。
「うぅっ緊張する。ボールありがとう」
不安そうな咸峰さんが手を伸ばすので私はボールを差し出す。
「頑張ってください。期待してます」
「うわぁっ、プレッシャーだぁ……」
バスケットボールを手にして、今にも頭を抱えそうなほど困った顔をする咸峰さんを見て思わず笑ってしまう。
つられて笑う咸峰さんはバスケットボールを体育館の床へ落としバウンドしたボールを叩いてリズムよく行き来させる。いわゆるドリブルというやつである。
「凄い!」
「嬉しいけど、緊張するなぁ」
生き物のように動くバスケットボールを見て私が上げる感激の声を聞いて咸峰さんは苦笑いをする。だが一転ゴールを鋭くなった目で見つめる咸峰さんの姿に、いつもと違う姿を発見できた気がして嬉しくて頬が緩む。
バスケットのシュートの構えから流れるように、しなやかに放ったボールは綺麗な孤を描く。一瞬だけど音が消え、ゴールポストのリングに当たった瞬間に音が戻る。
バァーンっと激しい音と共にゴールの板が揺れ、リングに弾かれたボールが下に落ち大きく跳ね壁にぶつかる。慌てて走る咸峰さんが、まだ跳ねるボールを受け止める。
「外しちゃった」
恥ずかしそうに言う咸峰さんの姿に思わず笑顔を浮かべると、咸峰さんは照れ笑いをしながら頬をかく。
「でもカッコよかったですよ。私バスケットのシュートを間近で見たの初めてなんで感動しました」
「そ、そうかな……。もう一回やってみる」
数回ドリブルをして再びシュートの構えからシュートを放つが、ボールは板を揺らすと床に落ちてしまう。
「うーん、今のはそんなにカッコよくなかったかも」
「うぅっ、ショック」
私が冗談交じりに言ったら、ボールを抱え込んで咸峰さんは大袈裟に肩を落としてしまう。
私の言葉にすぐ反応してくれる、そんな何気ないことがちょっぴり嬉しくて笑うと咸峰さんも笑ってくれる。
咸峰さんがいることで私がここに存在している。そんな風に感じさせてくれる時間が心地いいなと思ってしまう。
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