六、
勢いは大切だとそのまま咸峰さんに連れて行かれたのは市の体育館。
「コートが開いていればいいんだけど」
そう言いながら慣れた感じで体育館の中に入ると受付へと向かう。
日頃入ったことのない空間に戸惑いながらキョロキョロと見回す挙動不審な私は、恐る恐る咸峰さんについて行く。
「今日は予約入ってないから個人利用できるって。良かったぁ~」
ホッとした安堵の表情を見せ、すぐに笑顔になる咸峰さんを見て、本当に分かりやすい性格だなと思ってしまう。
小さな町にある古い体育館の中はバレーボールやバトミントンをしている人たちがいた。私服やジャージを着ていて、本格的というよりは楽しく遊んでいるといった感じに自分の場違い感が薄まった気がして胸をなでおろす。
「ここにはよく来るんですか?」
慣れた様子で倉庫へ行きバスケットボールを選んで、迷うことなくバスケットゴールの方へ向かう咸峰さんに尋ねる。
「最近は来てなかったけど、小学生の頃とかはよく来てたかな」
答えてくれた咸峰さんは、後ろをついて行く私に言葉を続ける。
「小さい頃に父さんに連れて来てもらって初めてバスケットボールを触った場所だったような気がする」
「へぇ~、じゃあ咸峰さんの原点みたいな場所なんですね」
「そんな大袈裟なものじゃないけどね」
私の言葉に振り返って笑う咸峰さんを見て、つられて頬が緩んでしまう。
「でも、思い出はいっぱいあるかな」
少し恥ずかしそうに言う姿を見て、ほんのちょっぴり咸峰さんのことを知れたような気がした。
「えーっと、ちょっと準備運動するから」
そう言ってバスケットボールを置いた咸峰さんだが、バスケットボールが転がり慌てて手で押さえる。
「持ってましょうか?」
「あ、うん。お願いできる?」
「いいですよ」
そして渡されたとき距離が近くなったことに心臓の鼓動が速くなるのを感じるが、それよりも渡されたバスケットボールの肌触りと重みに意識が向かう。
「バスケットボール触ったの初めてかも」
「そうなんだ。じゃあバスケットボールデビューの場所は僕と一緒だね」
優しく笑う咸峰さんに私は思わずバスケットボールを強く抱きしめて、速くなった鼓動を抑え込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます