五、

 咸峰さんがバスケットをするところを見てみたいと思ったら口にしていた。


「見てみたい」の言葉が口から出たことに、自分でも驚いていると私と同じく驚いた表情の咸峰さんが照れくさそうに頬を掻いている。


「僕のなんか見ても面白くないと思うけどな」


「面白いかどうかは私が判断します」


 この物言いが私の可愛くないところなのは分かっている。


「興味あるから見てみたいな」と素直に言えば可愛げもあるかもしれないけど、口から出てくる言葉はこんなのばっかりである。

 すぐに言い直せばいいのにタイミングを自分勝手に見失った私は、ただじっと咸峰さんを見つめることになってしまう。


 嫌な顔をするかも、不機嫌になるかもとドキドキしつつじっと見る咸峰さんは、私の心配に反して腕を組んで首を捻って本気で悩んでいる様子を見せる。


「う~ん、面白さを提供できるかは分からないけど今ならシュートを打つくらいなら見せれるかも」


 申し訳なさそうに言う咸峰さんの顔を見て、私はハッとする。


「ごめんなさい、足が治ったばかりでしたよね」


「ううん、別にいいよ。全力で走ったり急転換したりとかして負担をかけなければいいから」


 咸峰さんは足を怪我していたことを完全に忘れていた私は、失言だったと反省するが咸峰さんは恥ずかしそうに笑う。


「バスケするのを見たいって言われたの初めてだったから、ちょっとびっくりした」


 そう言いながら顔を赤くした咸峰さんが笑みを私に向ける。


「いいとこ見せるチャンスだしね」


「そ、そういうのは心の中にしまっておくものじゃないですか」


 他人から好意を向けられたことのない私はしどろもどろになりながら、可愛くない言葉で自分を保つが、咸峰さんは「そうだね」と笑う。


 その笑顔が直視できない私は下を向いてしまう。

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