三、
私が感謝の気持ちを伝えると咸峰さんは何かを振り払うように首を振って、膝を叩き勢いよく立ち上がる。
「さっ、そうと決まれば練習しようか」
颯爽と立ち上がった姿を私が見上げると、目が合った咸峰さんが少し恥ずかしそうに手を差し伸べてくる。その手を掴むが引っ張られる前に私が軽く引っ張る。
引っ張られるとは思っていなかったのか、咸峰さんは凄く驚いた表情をする。
「もうちょっとだけ、お話しをしてもいいですか?」
自転車の練習も大事だけれど今はもう少し話がしたかった私は素直にお願いしたわけだが、実はこの行動に自分でもビックリしていたりする。
少し大胆だったかとドキドキする胸の内を悟られないよう見つめて返事を待つと、咸峰さんは笑って私に引かれるまま隣に座る。
座るときに離された手をどこに置いていいか一瞬迷い、なんとなく膝の上に置いてしまう。自分の行動なのになんだか不自然に感じてしまう。
「あの、足はもう痛くないんですか?」
「足? ああ、うん、もう痛くないよ」
その答えにホッとする一方で、不安が過る。
「足が治ったら、部活に復帰するんですよね? もうそろそろだったりするんですか?」
「あ、ああ。その……」
凄く罰が悪そうに苦笑いをしながら私の問いに答える。
「いや、まだみんなには治ってるって言ってなかったりするんだ」
「どうしてです?」
「う、う~ん。その、今こっちの方が……自転車の練習をする方が楽しいから……あ、うん」
歯切れの悪い答え方をするが、ようするに私と練習するのが楽しいと言っているわけで、そのことが嬉しいと思ってしまうがすぐに申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。
「私のせいで咸峰さんがバスケットの練習に行かないのは、ちょっと違う気がするんですけど」
咸峰さんは私の言葉にしょんぼりする。その姿を見てちょっと言い方がきつかったかなと思ってしまい、すぐさまフォローを入れるため言い直す。
「練習を手伝ってくれるのは嬉しいのですけど、その為に咸峰さんの好きなことが犠牲になるのは負い目を感じてしまいます」
だいぶんやわらかい感じになったはず。
たぶん……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます