七、
お昼御飯を食べた僕たちはパン屋さんを出て、目的地であるスポーツ用品店の総合ショップへとたどり着く。お昼ご飯で満足してしまったが、今日の目的は『自転車の整備について学ぶ』なのだからこっちがメイン。
実はパスタ食べて満足してしまっていたのだが、それを悟られないよう、いつもより真面目に顔を作って市村さんについて行く。
「って、市村さん。ぼんやりしているけど、どうかした?」
声をかけると工具コーナーでスパナを持ったままぼんやり眺めて動かない市村さんが、ビクッと肩を震わせる。
「え、あ、パスタが美味しかったとか、今度トマトの冷製パスタ食べたいとか考えてませんから」
考えていることを口に出してしまうという、言い訳失敗のお手本みたいな答えが返ってくる。
「アスパラとベーコンのパスタも美味しそうだったよ」
「隣の席の人が頼んでいたヤツですよね! いい匂いしてたから気になってたんですから……別にチェックしてたわけじゃないですよ」
ムッとした顔をわざとらしく繕い、僕を睨むがその瞳には鋭さは感じられない。
「
怒られてしまう。
「ごめんなさい」
自分のことを棚に上げて理不尽だと思いながらもとりあえず謝る。
「なんで謝るんですか。ここ突っ込むところです」
謝ったのに怒られる。
この世は理不尽であふれている。
「そんな悲しそうな顔しないでください。私が悪いみたいじゃないですか」
「いや、原因は市村さんだと思うけど、」
ここまで言って噴き出して笑ってしまう。
「え? なに? なに? なんで笑ってるんです」
笑う僕に市村さんが慌てる。
「初めて会ったときと同じ人と思えないなあって思ったら笑いが堪えられなくなった」
初めて会ったとき、こけた市村さんを起こそうとしたら「触らないで!」と拒絶されたときのことを思い出し笑った僕に、市村さんも思い出したのだろう。赤くなった頬を少し膨らませ、僕を睨む。
「だ、だって、助けに来る人がいるとか思わなかったし……手伝うとか言い出しますし……というか咸峰さんはなんか会ったときよりも時間が経って理解できるどころか、むしろ意味不明、理解不能になってしまいました」
「どういうこと?」
「掴みどころないですし、何を考えているか分かりません。噛めば噛むほど味が行方不明になる逆スルメです」
逆スルメなるワードを向けられ
でも市村さんの顔はなんだか優しい。
「よく言われる」
僕が答えを聞いた市村さんが吹き出す。
「でしょうね」
そして二人同時に笑ってしまう。
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