六、

 市村さんから「意味わかんない」との言葉を頂戴して、なんて答えていいのか思案しているときにタイミングよく店員さんが料理を運んできてくれる。ナイスなタイミングでやってきた店員さんに感謝しつつ、このタイミングを逃さない僕である。

 

 バスケの時はタイミング逃すのにね、なんて声が聞こえてきそうだが気にしない。


「これが市村さんの言ってた、パスタ⁉ 美味しそう!」


 完璧な演技で話を逸らしにかかる。手にフォークを持つ僕をジト目で見る市村さんがボソッと呟く。


「わざとらしすぎ……話を逸らそうとしてるのが丸わかりです」


 市村さんはジト目ながらもフォークを手に取って合掌をすると、器用にフォークを使って口に運ぶとパクリと一口。頬を押えフルフルと震えながら目を輝かせる市村さん。


 か、可愛い……。


 この姿を見れただけでも今日来て良かったと心から思える。


「あの、ジッと見るのやめてもらえません。食べにくいんですけど」


「ごめんなさい」


 頭を下げる僕を見ているであろう市村さんが喋らないから、沈黙が訪れてしまい頭を上げるタイミングを見失う。


「ぷっ」


 突然吹き出した市村さんを恐る恐る顔を上げて見ると、口に手を当て肩を震わせている。ポカンとする僕を置いてきぼりにして笑いを必死にこらえているのだ。


「咸峰さんって本当に面白い人ですよね」


 未だにポカンとしたままの僕を見て、楽しそうに笑い直すと少しだけ真面目な顔を繕う。


「パスタ冷めちゃいますよ」


 正直何が起きたのか全く理解をしていない僕だがパスタにフォークを刺すと不器用にグルグル回す。


「美味しいですか?」


「うん、クリームパスタとか普段食べないけどハマりそう」


 僕の答えに満足そうに頷くと、


「それは良かったです」


『濃厚クリームパスタ』の『濃厚』がなければ味わう余裕もないくらいに、御満悦な表情の市村さんとの食事を僕は楽しむのだった。

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