四、
時間には全然余裕があるのだがウキウキとスキップ調の足取りは、ただの早歩きに変わり気が付けば三十分前に着いてしまった。
「早いですね?」
「うわぁ!」
キョロキョロ、オドオドしていた僕は真横から声を掛けられ、盛大に驚いてしまう。
「うわぁって……前もそんな感じで驚いてましたよね。結構驚く人なんですか?」
可笑しそうに口を手で押さえてクスクス笑う市村さん。インディゴブルーのワイドパンツに白のスニーカー、アイボリーの七分のスキッパーシャツ、襟元から見える首筋に僕はつい視線がいってしまう。僅かに開いた襟から見える鎖骨から首に向かうライン……尊い。
どうやら僕は首筋フェチだったようだ。自分に対しての新たな発見に感動してしまう。
「あの、前も言いましたけど、どこを見てるか大体分かりますよ」
「あ、ごめんつい見てしまいました」
「
謝る僕に対し、ため息をついて呆れる市村さん。
「はぁ、取り合えず最初はご飯を食べに行きましょうか。商店街にあるパン屋さんのランチセットが美味しいらしいんです」
そう言って歩き出す市村さんの左手には杖が握られていた。身近に杖を見ることがなくてつい杖じっと見てしまうと、歩いていた市村さんがピタッと立ち止まり僕の方に振り返る。
「変ですか?」
「ん? なにが?」
不安そうに尋ねてくる市村さんの意図が読めなくて、なんて答えていいか分からない僕に杖を上げて見せてくる。
杖って、おじいちゃんが使ってた黒くて太いヤツしか見たことがなかったから馴染みがなかったけど、市村さんの杖はピンクで細く、よく見ると沢山の絵が描かれている。このシルエット……猫? この猫ってどこかで見た気が……。
「あっ! その杖に描いてある猫って、110匹猫ちゃん?」
想定していなかった答えだったのか驚いた顔をした市村さんだが、小さく頷きながら「はい」と答えてくれる。
「凄く可愛いね。杖って渋いイメージしかなかったから、そんな可愛いのがあるなんて知らなった」
今度は凄く嬉しそうに、ふふっと笑うと、
「でしょ、猫が好きな私としては110匹の猫は魅力的でしかないですからね。お腹すきましたし行きましょうか」
「うん、お腹すいたし行こう」
僕と市村さんは並んでアーケード街を歩き、目的のパン屋さんへ向かうのだった。
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