三、

 母から逃げるように急ぎ足で家を出た僕が向かうのはコンビニだ。


 なぜ市村さんのところではなくコンビニなのかといえば、今は朝の九時だからだ。


 市村さんと待ち合わせをしている時間は11時だから、待ち合わせ場所に行くにはいくらなんでも早すぎる。遅れて行くよりはいいだろうけど、二時間前からずっと待っていたとか言ったらドン引きされる可能性もある。


 まあ、早めに行って「待たせてごめん」からの「いや、待ってないよ。今来たところ」なんて定番の流れに興味がないわけではない。


 妄想に勤しみ、全然集中できていない立ち読みをしている僕は本から視線をずらし、ガラスを見るとニヤニヤしているの姿が映っていた。


 気持ち悪い……。


 軽く咳ばらいをして、きりっとした表情を作ってみる。


 やっぱり気持ち悪い……。


 待ち合わせの時間までまだ余裕があるので僕は、メンズファッション誌を読みつつ自分の恰好と照らし合わせる。雑誌に載っている人たちのカッコよく服を着こなしていて、読んでいた僕は自信を失ってしまう。


 市村さんも一緒に歩くならこんなカッコいい人がいいんだろうなと思うと気持ちが沈んでしまう。


 プロであるモデルの人と自分を比べても仕方ないのだけど、やっぱりカッコよく服を着こなしている人たちを見ると自信を無くしてしまう。同じ服を僕が着たとしてもこの人たちと同じようにはならないだろう。

 そう考えるとこの人たちは本当に僕と同じ人間なのだろうかという疑いを持ってしまう。世の中は理不尽であふれていると実感する。


 これ以上読むと僕は自信喪失で市村さんの元へ行けなくなりそうなので、そっと雑誌を閉じる。


 ふと時計を見ると十時を過ぎていた。自信喪失して気を失ったいたのではないかと疑いたくなる時間の経過具合だ。新たな時間の潰し方を得た気がする。かなり精神力を削られそうな方法だが。


 立ち読みだけでコンビニを出ることに罪悪感を感じた僕は、グミを買ってコンビニを出ると、眩しい太陽を浴びながらウキウキで市村さんとの待ち合わせ場所へ向かう。

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