四、

「会話してて思ったんですけど、咸峰みなみねさんって変わった人って言われませんか?」


 なかなか失礼な質問をされる。だが怒らない、いや怒れない。だって本当のことだから。


「言われるね……」


 つかみ所がないとか、フワッとしてるとか、変わった考え方するねと、よく言われるから素直に頷く。


「やっぱりと言うと失礼ですけど、変わった考え方しますよね、なんかこうフワッとしてつかみどころがない感じです」


 会って日の浅い人からも言われるって、よほど僕は変わった人間ということなのだろうか。ここまでくると変な意味で自信がついてしまう。


「ちなみにどの辺が変わってる?」


「そうですね、私の足のことを聞いても哀れみや慰みの言葉をかけてこないところ。それどころか自転車乗ることを一緒に頑張ろうって言うとこですかね」


「ん~、哀れみっていうか大変だろうなって気持ちはあるよ。あるけど僕は『だろうな』としか言えないわけで……今の自分ができることを手伝った方が良いかなってね。あぁごめん、うまく言葉にできないや」


 言葉にしようとしたけどうまくできず、笑って誤魔化してしまう。最後の方クサイセリフだなと途中で意識してしまい、恥かしくなって誤魔化したのもあるけど。それを知ってか知らずか、市村さんが僕に見せる笑顔が少し意地悪っぽく見える。考え過ぎだろうけど。


「今自分ができること、いい言葉ですね」


 意地悪っぽいって言ったの撤回! 共感してもらえてた。いい人だ。


「それじゃあ、まずはどうすればいいですか?」


 そう言いながら見せる笑顔が、可愛くて直視できない僕は。右下斜め三十度くらいを見つめて答える。


「今日やったようにまずは乗れる感覚、イメージを掴む感じでいいんじゃないかな?」


「意外と地味にいくんですね」


「焦らず、確実に、一歩ずつだね」


 僕の言葉に市村さんが関心した表情を見せる。


「誰かが言ったセリフの受け売りだけどね」


「それは言わなくてもよかったでしょうに」


 そう言いながら笑う市村さんにつられ僕も笑ってしまう。




 ━━ここから本格的に練習が始まったんだよね。


 今思い出しても、なんか恥ずかしい気持ちと、ドキドキした感覚と一緒に情景が蘇るよ。キミは覚えてる?

「そうだったっけ?」とかとぼけそう……


 うん、間違いなくそう言うだろうね━━

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る