知ること、知られること
一、
僕は授業中に昨日のことをぼんやりと思い出す。
二人乗りをしたときの密着したことによるドキドキと、上手く乗れるのか、倒れないかの緊張感からくるドキドキ。
そして最後に見せた笑顔。
胸に残る心臓が高鳴った後の余韻。
思い出すと鼓動が再現されそうになる。
授業終了のチャイムが鳴り、胸の鼓動を誤魔化してくれた上に授業の終わりを教えてくれる。なんていいヤツだと思いながら、机の上に出していた教科書をいそいそと片付ける。
そして迎えた放課後に、足の痛みを確認して僕は学校を後にする。因みに右足は昨日の二人乗りの際に少し痛めたみたいで、ちょっぴり痛い。
安静にしなさいと言ったお医者さんに心の中で謝りながら僕は歩く。
行くのは家でも、お店でもなく河川敷。
会う約束なんてしてないけどまた会えるかもしれない。
完全に下心ありだ。
下心を隠さないのが僕の良いところだと、自画自賛しながら河川敷へ向かう。
* * *
河川敷に市村さんの姿はなく僕は土手の斜面を滑り降りると腰掛けて河川敷と川を眺める。
この川、
そんな川に詳しくないから分からないけど、子供の頃から見ている川だから眺めていると落ち着く。
カラカラとチェーンの音を立て押されてきた自転車が、僕の前に前に立つ。
「暇なんですね」
「うん、暇だね」
「皮肉に素直に返さないで下さい」
市村さんがため息をついて呆れた顔で僕を見る。それに対し僕が笑って誤魔化すと、更に大きなため息をつかれる。
「本当に変わった人です」
普通に聞けば文句だが、なんとなく優しく聞こえてしまう僕は末期であると思う。
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