八、
うまく乗れなかったのがショックだったのか、落ち込む市村さんを連れ河川敷の土手にある階段まで一緒に歩く。
「階段に一段上がれば少しは楽に乗れると思う」
僕の言葉に頷き階段を上り自転車を見つめる。どうやって乗ろうか悩んでいるようだったので声をかける。
「えっと、僕の肩を掴んでみる……とか?」
僕の提案にコクりと頷くと肩を握り荷台に跨がろうとする。
最初こそ手が肩に触れた手の感触にドキドキしたけど、力が入ってギリギリと握りしめられ痛い! しかも揺れて指が食い込むからたまらなく痛い。
痛いけど真剣に乗ろうとしている市村さんを邪魔しちゃ悪いかなと、じっと耐える。
やがてグッと自転車が沈み、市村さんが後ろに乗ったのが伝わってくる。振り返るとちょっぴり緊張した面持ちの市村さんが座っていた。心なしか小さく見えるのは緊張で萎縮しているからかもしれない。
名前しか知らない見知らぬ人に身を任せるのだから仕方のないことだが、その緊張感が僕にも伝わってきて僕も体がこわばってしまう。
「じゃあいくよ、いい?」
「え、ええっ、お願いします」
ペダルに右足をかけ片足で車体を支えて初めて知る。
バランスをとるのが思った以上に難しいことを。
これ、漕げるのか?
強引に漕ぎ出そうと左足を離そうとしたとき、市村さんが僕の服をぎゅっと握った為、背中に引っ張られた服に締め付けられて僕はよろけてしまう。
慌てて右足を出し、なんとか踏ん張り転倒を防ぐ。
「い、市村さん? 服、引っ張ると苦しい……」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
慌ててパッと手を放すと苦しみから解放され、振り返ると後ろには下を向く市村さんがいた。なるべく爽やかさを意識して声をかける。
「もう一度だけやってみるけど、いい?」
市村さんがコクりと頷く。
「じゃあ、いくよ」
今度はパッと素早く足を離し、力強くペダルを踏み自転車を前進させる。
凹凸があって地面の状態も悪いんだろうけど、それよりも二人乗りに慣れていない僕と、自転車に乗れない市村さんが二人乗りをすれば自転車は不格好に進むに決まってる。
フラフラと爽快感皆無の自転車はヨロヨロ進みなんとか止まる。
後ろを見ると、市村さんと目が合う。
「えっと……どうかな? ほら、自転車に乗りたいって思えたかなあ~って……なわけないか」
苦笑いをする僕を見て、市村さんはふふっと下を向いて笑う。
「いえ、十分です。ありがとうございます」
そう言いながら初めて見せてくれた笑顔に、僕の心臓は高鳴ってしまうわけである。
━━周囲の人が見たらなんて不格好な二人乗りなんだろうって思っただろうね。
でも二人にとっては初めての二人乗り。今でも鮮明に覚えてる。
今ならもっと上手く乗れるのかな? う~ん、やっぱりフラフラするんだろうね。
二人らしいって言えば、らしいのかもね━━
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