五、

「想像していた以上に酷いプレゼンでした」


 市村さんからの最低の評価をいただく。


 いや、この結果は分かってはいた。


 自慢じゃないが僕には会話のセンスがない。


 バスケットをしていると陽気な奴で、トークもバッチリで盛り上げ上手だと思われがちだがそんなことはない。

 どちらかと言えばオタク気質で僕がバスケをしていると言うと驚かれることからも、間違いなくトーク力はないと自信をもって断言できる。


「じゃあ逆に尋ねるけど、市村さんは何で自転車に乗ろうとしているの?」


 僕の質問に対し、人差し指を唇に当て少しの間考えると、その指を僕に向けて差してくる。


「楽しそうだからです。他の人が楽しめて、私が楽しめないのはなんか嫌だからです」


 そう答える市村さんの目は真剣で、初めて会ったときから感じていた気の強さをふんだんに含んでる。


 私は負けず嫌いですと、目が訴え掛けてくる。その目に負けないように見返しながら尋ねる。


「それが練習する理由なのはダメなの?」


 至極全うな意見だと我ながら思う。


「今まではそれでやってきました。だけど、この体の傷と、練習する労力が見合っているのか疑問に感じ始めているんです」


「だからもっとやる気の出る理由が欲しいと」


 市村さんの言葉に僕が続くと大きく頷いてくれる。合っているということだろう。

 

 僕は真剣に考えてみる。


 そもそも自転車に乗る理由って何だろう? 子供の頃はなんであんなに乗りたくて、怪我しても一生懸命練習したのだろうか。


 遠い昔の記憶を手繰り寄せながら自転車の楽しさを考える。


 いや、思い出すといった方が正確かもしれない。


 幼い頃の僕は自転車に乗って何がしたかったのだろう。


 何気ないことが全て楽しかった幼い頃。自転車に乗れれば何処までも行ける気がした。


 実際に乗れるようになって何処までも行ったかと聞かれると、行っていないのだが……。


 自転車の最初の楽しみって乗れるまでの過程であり、乗れる人に憧れ、自分が乗れた瞬間を夢見ているときではなかろうか?


 現に市村さんは、人が乗るのを楽しそうだと言っていた。ならその気持ちを思い起こさせればいいのではないだろうか。


 これしかないだろう。我ながら名案だと思う。

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