二、

 16年間の人生を振り返ってみると、本気で驚いた経験はあるようでない気がする。


 ましてや漫画みたいに身を震わせ「うわっ!?」なんて叫ぶ日がくるなんて思いもしなかった。


 慌てて声の主へ振り返ると、そこには僕が探していたジャージ姿の女の子が自転車を押して立っていたわけで。


「誰かをお探しのようですが?」


「あ、いや……」


 名前も知らない女の子に「君を探していたんだ」なんて言えば逮捕案件に成りかねない。

 ハンドルを握って僕を見る女の子になんと言えばいいか思案する僕の口から出た言葉は、


「えっと、名前。僕、咸峰みなみねたけるっていうんだけど」


 そう、自己紹介。取りあえず名乗ってみる。


 女の子は訝しげな表情で僕を見た後ため息をつくと、


「そうですか」


 それだけ言って自転車を押し始める。


 あまりにもあっさりした反応に呆気に取られるが、冷静に考えれば知らない男から突然名乗られても困るというもの。


 そもそもなんで僕はこの子に執着しているのだろうと疑問に思ってしまう。


「足……病院へ行きました?」


 突然声を掛けられ驚きながら女の子を見ると、自転車を止め僕を見ている。

 さっきまでこの子に執着していることを疑問に思っていたのに、声を掛けられた途端に嬉しくなった僕は単純で、幸せなヤツなのは間違いない。


「病院行ったよ。足首の捻挫だって言われた」


「そうですか、それなら良かったです」


 この子とまともに会話できたのも嬉しいが、それ以上に前に会ったときの会話を覚えてくれていたのが嬉しかったりする。


 ここは勢いに乗るべきではなかろうか、そう思った僕は勇気を出してダメ元で尋ねる。


「名前、教えてもらえないかな?」

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