H組は強すぎる
失点したので、こちらのボールでスタート。フィクソの僕にボールが戻され、ピヴォ、アラ役の三人がそれぞれ十二時、三時、九時の位置について、僕は六時で一旦キープした。
さきほど僕は左の九時にいるアラにパスしようとして香月さんに奪われた。それが頭にあったから、今度は右三時のアラにパスを通して、僕が三時に上がり、三時のアラが六時に下りてくるエイトの動きを始めようとした。それしかなかったからだが、これもまた相手に阻まれてしまった。
目の前に
僕は慌てた。
香月さんの目が輝いている。まさに獲物を見つけたライオンみたいに動きも速かった。
それでも、三時にいたアラが五時あたりまで下りてきてくれたので、僕はどうにか右へパスを出し、急いで真ん中を前に向かって抜けた。
九時にいたアラも左端を下がって下りてきたので、僕のパスを受けた右のアラは、六時の位置から、左のアラと、真ん中を抜けている僕のどちらかにパスが出せるはずだった。
ところが、左のアラにはもうマークがついていた。僕とボールを持っている味方の間に香月さんがいて、僕へのパスコースをふさぎながらボールに向かって突っ込んだ。まるで背中に目がついているみたいだ。
香月さんはたやすくボールを奪った。そしてシュート。
今度は賀村がどうにかキャッチしてゴールは死守した。
「ああ、惜しい」香月さんが悔しがっている。「素直すぎたああ」
「ドンマイ、ドンマイ」
相変わらずH組女子は元気だ。僕たちのクラスのお株を奪っている。
僕たちは気づいてしまった。香月さんは考えて行動していない。隙があったらそこをつく。まさに本能的な動き。そして彼女の個人技が凄すぎて、こちらがいくら作戦をたててフォーメーションを組んでも意味がないということに。
こちらがボールを持っているのに、相手はどんどんプレスをかけてボールを奪いに来る。どちらが攻撃しているかわからないような展開だった。
そしてまたマイボールで開始。ボールが僕のところに戻り、ダイヤモンド型の配置。それしか練習していないから仕方がない。
そして香月さんも僕に向かってプレスをかけてくる。
僕は左へのパスをせず、三時にいたアラが十二時に上がるところに向かってパスを出した。
いきなりイレギュラーな動き。しかしそんな付け焼刃のようなパスが通るはずもなかった。
それこそ、まるで読んでいたかのように相手ディフェンダー?がボールを奪い、H組のボールとなった。
ここで初めてH組ボールの攻撃が始まった。今までずっと僕たちが攻撃をしかけて相手に奪われていたのだ。何だか持たされていた感じがしてならないけれど。
H組は香月さんをピヴォにした3-1のフォーメーションだった。後ろの三人がエイトの動きでパスをまわす。なんてうまいんだ。それに綺麗だ。
見惚れている場合ではない。僕たちから見て四時あたりにいた香月さんが、タイミングよく中へ入ったかと思うと、その香月さんにパスが通ってしまった。
僕が香月さんにつくしかない。
香月さんは楽しそうだった。目がキラキラしている。
僕は抜かれないように気を付けながら香月さんとの距離をつめた。
すると香月さんはボールをキープしたまま僕に背中を向けた。
向こうから後ろにいた三人が同時に上がってきた。本当に同じ高さで。
僕はどうにかして香月さんからボールを奪いたかったが、抜かれるのも嫌なので、思い切った動きもできなかった。それに、香月さんが僕の股間の方にお尻を突き出していて、それがとても気になってしまったのだ。
左から来た相手女子がこちらのマークを振り切っていた。香月さんがソフトタッチでその前にパスを出す。左から来たH組女子は足を振りぬくだけで良かった。
見事なシュートが賀村の手をすり抜けて決まった。
個人の力に差がありすぎる。僕たちは手も足も出なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます