そして僕は黒歴史を思い出す

 法月に言われて僕は中一ちゅういちの日々を思い出した。決して思い出したくない黒歴史。いや逆にときどき思い出して過去の栄光に浸りたかったのかもしれない。

 全くあの頃の水沢先生はぶっ飛んでいた。キャラは全く異なるが今の沢辺先生と同じノリだ。入試成績上位三十名でできたA組。どうせならその順位のまま班分けしちゃえ。まだ二十五歳だった若き日の水沢先生の可愛い顔もよみがえってきた。今も可愛いけど結婚したんだよな、やっと。

 とにかくそれで六つの班ができた。僕の班は五人。六つの班は縦一列に並べられ先頭から入試成績が良い順に席が決まった。三十人目と思い知らされた奴の気持ちなど僕にはわからない。全く興味もなかったから。僕は一班の先頭にいた。何を隠そう、僕は中等部の入試を一位で合格したのだ。

 もともと僕は中学入試で有名進学校を目指していた。御堂藤学園は滑り止めみたいな扱いで、全く眼中にもなかった。ただ家から比較的近いというだけの学校。合格するのは当然でそこに通うことになるなんて思ってもみなかった。しかし現実は厳しい。僕は第一志望の学校に落ちた。それがショックだったのか、焦ったのか、僕は第二志望の学校にも不合格になり、仕方なくこの学園に通うことになったのだ。

 その頃僕は一瞬でも自分の実力の無さを思い知らされ謙虚になっていた。それが一位で合格していたことを知り、井の中の蛙状態で、まわりの奴らが皆劣等生に見えた。水沢先生が黙っていたら僕もそんなに天狗になっていなかっただろう。と僕はいまだに人のせいにしている。

 とにかく僕は一班の先頭にいた。すぐ後ろが法月だった。今のどうしようもない、だらしない法月ではなく、あの頃の法月は近寄るのもおこがましいと思わせるくらい神秘的な美少女だった。僕だけが彼女を下に見る権利があると思い上がっていた。

「あの時、生出は先頭だったよな」現在の法月は笑う。「二番目があたし、その後、アカネ、イズミ、ユマだった。あの時班長に任命されたお前は『オレに任せろ』とかなんとか言ったはずだ」

「ソンナコトイッタカナ」

「あたしも黒歴史はよく覚えているから間違いない」あんたも黒歴史だと思っていたんだ、法月さん。

「なんだこいつ、バカか、とあたしは思ったよ」そりゃ思うよな。今なら僕だってそう思う。

「水沢先生は班で競わせようとしていた。ふつう競わせるなら班の力を均等にするものだけど、成績順に分けて序列をつけ、上の班を目指し、下の班に抜かれないようにさせた。それが当たったよ。二班があたしたちの班を抜くのにそれほど時間はかからなかった。何より中間テストで生出おいでのメッキはすぐに剥がれたしな」

 そうだった。中間テスト、僕はやっと学年十位という成績だった。一位は法月。僕は一班の最後尾。水沢先生は面白がって縦の列を成績順に並び替えたから僕は最後尾になった。僕はそれ以降ずっと最後尾にいた。班分けが変更されなかったからだ。されていたら、たとえば三班の三番目とかになれたかもしれない。しかし一班のままで僕が浮上することはなかった。

「まあ、あたしも二学期の後半以降は生出のすぐ前になったけどな」

 一学期の中間テストで一位、期末テストで二位だった法月は夏休み明けから今の法月になってしまった。何かあったのだろうが誰も知らない。

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