僕はだんだんと

 中間テストが返ってきた。僕たちのクラスは僅差だったがやっぱり八クラス中八位だった。総合平均点の話だ。

 個人別では総合成績で鶴翔かくしょうさんが八位となり、一桁ランカーであることを見せつけた。

 個人成績は五十位まで貼り出されるがそこに名があったのはG組では鶴翔さんだけだった。何とも情けない話だが、G組は平均点からその少し下の者で溢れているようだった。

 そして、科目ごとの成績も五位まで貼り出される。鶴翔さんが物理とか英文法とか公民で名を載せていてさすがと思わせたが、特定の科目に名前を載せる奴が時々いる。たとえ総合成績五十位以内に入っていなくても、一つの科目でも五位以内に入ればそこに名が載るのだ。それを狙って勉強している奴もいた。

 僕は古文の五位に法月のりづきという名前を見つけてため息をついた。「やればできる奴なのに」

 成績が貼り出された掲示板の前に立っているとたまに声をかけてくる人間がいる。一人目は沢辺さわべ先生だった。

「惜しかったね、生出おいでくん」顔が近いよ、先生。

 僕が振り返ったすぐ目の下に沢辺先生の可愛い顔があった。上目遣いで目がキラキラしている。でも体はでかい。それも胸が。

 今日の沢辺先生はスーツ姿だったが、豊満な胸で下半身が見えなくなっていた。

「五十二位だったなんて……」

「よくあることです」

 だいたい僕の成績は、貼り出される五十位に少し届かない程度だ。別に載りたいとも思わない。一桁なら載っても良いが、って僕は偉そうな考えを持っている。

 中一の頃は僕も学年十位以内にいたこともある。中等部は一学年百五十名だからあの時の十位は今の二十位くらいに相当する。本来そのくらいの成績をあげなければならない。でも僕はもうすっかり腐ってしまった。今はヤル気なし人間の一人に過ぎない。

「G組の成績は、まあ予想通りだったよ」沢辺先生は意外に冷静だった。「ただ数学Ⅱの成績が……」

「悪かったのですか?」

「うちが悪かったというより、A組、B組などが予想より良くなっていて、差が広がったかな」

「あそこはライバル視してますからね」特にB組が。

「小町先生によると、宿題を半分にしたクラスは差をつけられた、とのことよ」

「え、まさかまた宿題が増える?」

「それはどうかなあ。悪くなったわけではないらしいよ。宿題が多いままのクラスが良くなっただけ」何だか小町先生に仕組まれた気がする。

「とにかく、期末は頑張ってねー」沢辺先生は笑った。

 このウソつきめ。ホームルームの時は「勉強だけが全てじゃない」って笑ってたじゃないか、汗を浮かべて。そんな沢辺先生を見ていると意地悪をしたくなる。

「ところで先生」僕は声を潜めた。

「なあに?」先生は可愛く訊く。

「合コンはどうだったんです?」

「な、な、なんてこと訊くのよ!」

 やっぱり訊いちゃダメなやつだったか。僕は笑いを噛み殺した。

「も、盛り上げ役は、り、立派にこなしたわよ」

「それは良かったです」訊かなくてもだいたいわかった。沢辺先生のキャラなら想像もつく。

「彼氏、できると良いですね」僕が囁くと沢辺先生は顔を真っ赤にした。

「なんてこと言うのよー」

 沢辺先生に突き飛ばされて、僕の体は舞った。

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