それをこなすのが

 連休が明けてしまった。自宅でゆっくりと過ごす当初の計画は全く達成できなかった。

 僕は意味もない会議に駆り出されて毎日のように登校していた。修学旅行委員会や球技大会実行委員会の集まりがあったりして、教室を使った。

 僕と鶴翔かくしょうさんは学級委員として立ち会ったり、最後に教室がちゃんと片付けられているか確認するために何度も見に行かねばならなかった。とはいっても鶴翔さんはチアダンス部として他の部の試合に応援団として同行したりしていたから、ほとんど僕一人の仕事になってしまったが。

 それもいるだけ、見るだけの仕事なのだ。意味あるのか? どの委員も片付けくらいできているよ。それを鶴翔さんが心配するから僕が行く羽目になった。鶴翔さんの顔を見るためなら僕も嬉しいが、鶴翔さんがいないところで他の委員がああだこうだ言っているのを黙って聞いているのは苦痛だった。

 修学旅行は沖縄へ行くことが一年生のうちに決まっていた。他にも京都やら北海道やら海外など候補はたくさんあって、選択制にしようという案も出たが、結局沖縄に一本化した。

 一学年三百人が一か所に行くのだから大変だ。宿泊施設も苦労した。どうにか一つ確保して、あとはどうするかが話し合われている。しかし具体的なことは簡単には決まらなかった。それを延々聞いていたのだ。

 そんな連休を過ごして五月。中旬に中間テスト、下旬に球技大会がある。

 朝のホームルーム、沢辺先生がいつものように「みんな元気だったあ?」と大きな声で訊いた。

 一番元気なのは沢辺先生じゃないか、という声も聞こえたが、「げんきー」と返しの声が揃った。

 これがよそのクラスまで聞こえているかと思うとはずかしい。ただ実際はクラス全体が声を出したわけではない。日の当たる窓側に陽キャが揃っている。廊下側は僕も含めておとなしい生徒だ。隣の奴は寝ていて静かなだけだけど。

 冷静に見渡すと、クラスの左半分を占める陽キャグループが賑やかにしていてクラス全体が元気なイメージを作り上げていた。

 右半分はおとなしい生徒で、とはいっても右にならえ精神に溢れているから、声を揃える気はある。

 口だけ開けて声を出していないのは結局僕くらいだった。隣の奴は寝ているし。

 僕の席は廊下側から二列目。全体で六列あったから左三列が賑やかでうるさい。右三列はそれに追従する生徒の集まりだった。

 ただ、本来おとなしい列である僕の左斜め前すなわち右から三列目に賀村よしむらがいたのだ。彼の席だけおとなしい列にはみ出していた。そして彼はこのクラスでは存在感のある陽キャだった。

 この配置は沢辺先生の発案だが何か意図があったのかと考えるようになった。それは賀村が時々僕に絡んでくるからだ。

「連休、どうだった?」後ろを振り返るようにして賀村は僕に訊いてきた。

 沢辺先生が退室し、一時限目の先生が来る前の時間帯だった。

「どうもこうも、毎日のように学校に来てたよ」

「そんなに忙しかったっけ? 学級委員」

 賀村は僕が学級委員の仕事で登校していたことを知っていた。普通なら、何か部活やってたっけ?と訊いてもおかしくない。

「各種委員会に立ち会ったり、教室の後片付けができているか確認したり、どうってことない仕事だったよ」

「それって、他のクラスもやってることなのか?」

「さあ、でも他のクラスの学級委員は部活で登校していたみたいだから、ちょっと集まるくらい訳はなかったんだと思うよ」

「あ、そうか」賀村は憐れむような目をした。「元気は部活やってなかったんだよな」

「帰宅部だぜ」僕はおどけて見せた。それくらいはできるようになっていた。

「きっと知夏ちなつが全部顔を出すとか言ったんだろ? それでいてあいつは忙しくて全部には出られない。代わりに元気が出ていたんだな」

「それしか僕には能がないからね」

「大変だな」

 一時限目の先生が来たので話は終わった。

 その日から中間試験に向けて誰もが勉強を始めた。僕の学級委員としての活動もしばらく休止になった。久しぶりに僕は一人の時間を満喫した。

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