非力だから
次の日の朝、僕はショートホームルームが始まる前、まだ
「昨日
「うん?」と顔を向けたのは賀村だった。
僕は昨日のあらましを語った。宿題は半分に減らしてもらえるが、小テストの出来次第でもとに戻るという話。
「それって、クラスの平均点が良ければ良いってこと?」多賀谷が訊いた。
頭が悪そうに見えて、そういうところは知恵が働く。自分の点が悪くても、みんなが良い点をとればオッケーで、宿題は半分のままなのか、という意味だ。
「うーん、そこまで確認してないな」ごめん。
「出来の悪い奴の宿題は増えるんじゃね?」賀村が言った。
「私もそう思うわ」鶴翔さんが同調した。
「意味ねーじゃん、下手したら前より多くなる?」
「さすがにそれはないと思う」根拠はないけど。「それでね、宿題が出た日に勉強会をしたらどうかと思うんだ」
僕はチラリと賀村を見遣った。
「めんどくさくね?」多賀谷が言った。
「宿題をこなす勉強会だろ」賀村がフォローしてくれた。「そして小テスト対策」
「なるほど、それ良いね」うまい話だと多賀谷はすぐに味方についてくれる。
「週二回になるわね」鶴翔さんが言った。「曜日によっては私は出られないわ」
「勉強会は希望者だけで良いよ。僕は出る」
「そうか」
「頼むわ」
「ということでクラスみんなに提案しようと思う」
その話は沢辺先生が来てショートホームルームが始まったら鶴翔さんが説明した。僕は補足説明する形になった。鶴翔さんが説明した方がみんなの同意を得られやすいのだ。
宿題が半分になるというので、「げんき組」の意気が上がった。「うおおおお!」という声が響いた。「げんき組」の毎朝雄叫び記録がその日も更新された。
そして小町先生の数学授業があった日の放課後、教室に勉強会希望者が残った。
鶴翔さんははじめの数分だけいて、助っ人団の活動でいなくなった。
教室には十人も残っていなかった。そのほとんどが賀村、多賀谷をはじめとする陽キャグループだ。
そこに
「まずは分担して解答をつくろう」僕は提案した。
宿題にされている副教材には正解しか載っておらず、途中経過が一切ないのだ。それをみんなで分担して作成することから始まる。といってブレーンとなる人材はいなかった。仕方なく僕が割り振る。多賀谷とかあまり数学が得意そうでない奴にも共犯者として解答作成に携わって欲しかったから簡単な問題を担当してもらった。賀村は平均よりも数学ができるようだったので、僕と二人でちょっと面倒な問題もやった。
小町先生が難しくないはずと言っていただけに難問はなかった。十人足らずだったが三十分もしないうちに宿題の答案は完成した。あとは写すだけだ。スマホのカメラで撮って、その場でノートに書き写す者、家でノートに転記する者に分かれた。
これで宿題は完成だ。問題は小テストだ。ここで小町先生を納得させる点をとらないともとの量に戻る。そうなると今日のように分担しても一時間近くかかってしまうかもしれない。一人でやったら何時間かかるんだ、っていう量だ。数学の宿題が出されるのが週に二回だから、これまで多くの生徒は毎日こつこつとやっていたのだろう。とはいえ他の科目だって勉強しなければならない。特に英語は数学並に自宅学習の量が多かったし、古文も予習しておかないと当てられた時に顰蹙を買う。これではその他の科目は定期テストの勉強すらできない。
「小テストは、ヤマはり、だな」
「それって、他のクラスと同じ問題なのか?」
「たぶんクラスによって変えてると思う」
「でも副教材と全く同じ問題が出てるんだよな?」
「だとしたら、他のクラスで出ていない問題は要チェックやな」なんでそこは大阪弁?
「どんな問題か調べてみるか?」
「でも答案用紙を回収してるよな」
問題用紙と解答用紙は別々になっていない。一枚に書き込む形なのだ。
「他のクラスが先に終えていたとして、問題は手に入らないんじゃね?」
「顔が広い奴に活躍してもらおう。覚えている分だけでも教えてもらうんだ」
「顔が広いって、誰?」僕たちは顔を見合わせた。
「鶴翔さんなんだよね」僕たちはにんまりと笑った。言葉はない。
「鶴翔さんに小テストの問題を教えて、なんて言わせることはできないね」僕は言った。「鶴翔さんらしくない」
「
「やっぱりこっそり友だちから情報収集しよう」
僕が言うと陽キャグループは引き受けてくれた。ただし、僕に友だちはない。いや、全くないわけではないが、気軽に訊ける、気のおけない友だちはないのだ。
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