なぜかって
僕に任せてください、と言うと
僕は、階段を下りていった沢辺先生とは反対に、階段を上った。そしてそこに黙って突っ立っている
「聞いていた?」僕は表情も変えずに訊ねた。
「悪いとは思ったが、聞こえてきたのでそのまま聞かせてもらったよ」
賀村は少しだけ申し訳なさそうな顔をしたが、もちろんほんとうに申し訳ないと思っているわけではないと僕は思った。
「どうすんだ、学級委員?」
「今後のことを考えて何か手を打つべきだと思う」
「チクった奴に心当たりでもあるのか?」
「あるけど証拠はないし、そいつを吊し上げたところで終わりというものでもない。これはそんな単純な話じゃないんだ。いくつかの対立構造が背景にあって、その歪みが産み出したもの。はじめは小さな綻びでも放置しておくとどんどん大きくなる厄介な問題さ」
「難しく考えすぎじゃね?」
「そうかもしれないけど、それで沢辺先生の元気がなくなるのは違うと思う」
「あの先生、意外と繊細だな」
「僕たち男子は沢辺先生と関わることがないから先生のキャラについて全然知らない。『げんき組にしよう。そのために生出くんに学級委員をやってもらおう』なんて言った時には、なんて人だと思ったけど、何か考えがあったのかもしれないと思うようになったよ、少しはね」
そう、少しはだ。まだよくわからない。僕は時に考えすぎるのだ。
「知夏に相談しないのか?」
「
「じゃあ、どうする?」
「まずは宿題の量をもう少し減らしてもらえないか交渉する。たぶんダメだろうけど。あとはみんなで勉強会かな、宿題の」
「見せ合うのがダメで、勉強会なら良いのか? よくわからんわ」
「たとえば僕がやった宿題を一部の限られた人間にだけ見せるからやっかみが出る。それを全員に広げたら良い。ただし僕が宿題を全部やるとは言ってない。みんなで分担だ」
「それが、お前の言う背景なんだな」
「投書した奴を特定しないでよ」
「今回のを特定したところで、似たようなことが起こると言いたいんだろ、わかったよ」
賀村は意外と理解力があった。物言わぬ者たちが何を考えてどう動くかなんて賀村には理解できないと思っていたんだけれども、それは僕の偏見だったようだ。
「お前、意外とよく喋るんだな」
「え」賀村に言われて僕は固まった。
「いつも知夏の横で黙っておとなしくしている奴かと思っていたよ」
「その通りなんだけど」間違っていないと思う。
「まあ、良いや」賀村は手を挙げて「じゃあな」と言いつつ去っていった。
陽キャは無意識にカッコいいからむかつく。
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