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彼女はクラスの顔だ。華だ。主役だ。鶴翔さんに任せておけば、クラスは順風満帆だろう。
僕はただ彼女の影に隠れて、縁の下の力持ちになっていれば良かった。今のところたいして役に立ててはいないが、それは僕の力不足というものだろう。
放課後、僕は学級委員が集まる委員会に参加した。そこでわかったのだが、どこのクラスも似たような状況らしい。学級委員が二人とも参加しているクラスばかりではなかった。一年生は二人揃っているが、二年生、三年生はそうでもない。あの優等生集団の二年A組でさえ男子学級委員しか来ていなかった。
クラス代表として一人で来た僕は、顔見知りを探した。こうして見ると、単に知っている顔ならいるが、その横に坐ろうかと思える人物はいない。H組の
「生出くん、こんにちは」本谷さんは小声で僕に声をかけ、いつもの涼しげな笑顔を見せた。
「どーも」我ながら女子とのコミュニケーションは苦手だ。
本谷さんは中等部入学生だから同じクラスになったことがある。だからといってよく喋ったわけではない。ここで大事なのは相手が僕の顔を覚えてくれていることだった。
僕がおとなしいことも知っているわけで、だから僕がほとんど喋らなくても、それは僕の気質によるものだと理解してもらえるのだ。これが初対面だと無愛想な奴と思われかねない。本谷さんだからこそ、僕の「どーも」が立派な挨拶だとわかるのだった。本当にめんどーな奴だと我ながら思う。
学級委員会に使われたのは視聴覚室だった。三十名ほど集まっているのに私語は少なかった。どうも発言力の高い学級委員ほど他の会議に出ていて、ここには地味な学級委員しか来ていないようだった。その中で一人甲高い声で喋る女子がいた。彼女は一緒に来ていた同じクラスの男子に何やら語りかけているようだった。その二人は二年E組の学級委員で、高等部入学生だと僕は思った。
中等部入学生百五十名ならこれまでの四年でだいたい顔は覚えている。うろ覚えや見慣れぬ顔はたいてい高等部入学生なのだ。しかも高等部入学生の方が陽気でぺちゃくちゃ喋るし、ルールに甘い。そしてまた成績も良い。
昨年度の一年生の時の成績は、僕たち中高一貫生四クラスよりも高等部入学生四クラスの方が平均点が高かった。科目によっては七点も開きが出ている。特に男子にその傾向が強く、僕たちおとなしい中等部入学生男子はいつも肩身のせまい思いをしていた。
ただ、今話し声が聞こえるのは女子の方なのだ。男子の方は僕と同じくおとなしく、どちらかというとコミュ障の傾向があるように見えた。一緒に来た女子に尻を叩かれている感じだ。
そんなことを思っていたら開始時刻になった。すると、二年A組の男子学級委員が立ち上がって議長席についた。
「委員長の高原が不在のため、どなたか代理の議長をお願いします」
この委員会の議長は二年A組の
「高原さん、いきなり欠席なの。忙しい人ね」と甲高い声をとどろかせたのは例の二年E組女子だった。「ま、それだけ忙しいんだろうけど」
世の中には場を支配する人間というものがいる。もちろんそれは相対的なもので、高原さんがいた前回の委員会ではそれが高原さんだった。しかし今回高原さん不在で存在感を示したのは三年生ではなく、間違いなく二年E組の彼女だった。
ここに来ている三年生は総じておとなしかった。発言力の高い人材はおそらく他の会議に駆り出されている。ここは学級委員の委員会にもかかわらず、
その場にいた誰もが、彼女の存在感に
「モンドウ君、君がやってみたら」何と彼女は一緒に来ていた男子にそう持ちかけたのだ。
「ん、ああ、わかったよ」彼は素直に彼女の言うことを受け入れた。
二年E組男子が議長代理についた。誰もそれに異を唱えなかった。まあそうだろう。たかが議長代理を決めるのに対立候補をたてて投票するなど時間の無駄だ。だから誰も何も言わなかった。二年E組の男子が議長席についた。
「二年E組のモンドウです。よろしく」
「頑張って」E組女子がささやくようにエールを送ったが、その声はよく通った。モンドウ君は恥ずかしそうにしていた。
前回参加したときには気づかなかったが、このE組の女子学級委員、けっこうウザい奴だ。モンドウ君は彼女に良いように操られている。そうなる何かがあるのかも知れなかったが、もちろん僕にわかるはずもなかった。
委員会は特に何事もなく過ぎていった。もはややる意味あるの?というレベルだ。おそらくこうなることを見越して、
今回の委員会はモンドウ君が議長代理としての経験値を得るためのものでしかなかった。E組女子学級委員は、滞りなく議事を進めるモンドウ君を目を輝かせて見つめていた。彼女はモンドウ君が好きなのだろうか。
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