僕が

 そんなこんなで、翌週月曜日にホームルームの資料は完成した。冷静に考えれば、毎週開かれるロングホームルームにおける学級会の議題であり、よそのクラスなら適当にしているものなのだろうが、鶴翔かくしょうさんがこだわっただけあって、とても良い仕上がりになった。

「素晴らしいわ! 年度計画と実行委員の業務一覧。ここまで綺麗にまとまっているのは見たことがない」沢辺さわべ先生が絶賛した。

 だから何?と他のクラスの奴なら思ったかもしれないが、その時の僕たち、僕と鶴翔さんと沢辺先生は見事な出来に酔っていた。あとから考えればコスパの悪い、見返りのない作業だったと思う。しかしその場にそうしたツッコミ役はいなかった。

「さすが鶴翔さんね」沢辺先生はベタ褒めだ。

 僕の叩き台をもとに鶴翔さんが仕上げたのだが、恥ずかしいことに僕が書いた部分はほとんどなかった。いったいどこを生出おいでは担当したのだ、と言われても文句は言えない。それだけ鶴翔さんの校正が素晴らしかった。ハッキリ言って、お前、要らなかったんじゃね。僕の脳内でもう一人の僕が言った。

生出おいで君の協力があったからです。生出君がいなければ完成しなかったでしょう」鶴翔さんは僕を讃えた。

「そうね、生出くんも頑張ったよね。私が君を見込んだのは間違いではなかった」

 何となく沢辺先生は僕よりも自分を称賛しているようにも聞こえたが、それでも僕は嬉しかった。これを使うホームルームは明日の火曜日だ。今日はそれとは別に学級委員が集まる委員会があった。

 僕たちの学校はやたら会議が多い。学級委員だけの委員会、学級委員以外の図書委員、保健委員など全ての委員が集まる委員会、生徒会、部活代表者と生徒会が集まる生徒会総会、その他にも部活連の会議だの何だのって数えきれない。歴史を重ねるうちに後から次々と組織を継ぎ足していったせいだ。

 はじめに委員会と生徒会があった。委員会は学校が用意した組織で、生徒会は建前上生徒主導の組織ということになっている。そのうちミニ同好会が乱立しだすと、生徒会と予算をめぐって戦うために部活連が誕生し、主として体育会系の部活を応援する応援団や、大会に出るための選手を助っ人として派遣する助っ人団など生徒が自主的に作った組織もできて混沌としてきた。

 それでもどれか一つ二つしか所属していなければ問題はないのだが、複数の部活に所属していたり、部活連や助っ人団などに所属していると会議に出るのも大変だった。鶴翔さんがまさにそうした多忙を極める生徒だったのだ。

「私は今日、生徒会総会のための部活連の会議に出なければいけないの。生出君、迷惑をかけるけど学級委員の委員会は一人で出てもらえるかな?」

 担任の沢辺先生の前でもそういうことが言えるのが鶴翔さんだった。生徒が半ば勝手に組織した、いわば非公認組織の部活連よりも学校が組織した学級委員の委員会の方が優先されるべきなのだが、彼女の現時点でのトリアージ理論によると部活連の方が上らしい。

「新入生が入って各部活の部員数も概ね決まった時期だから今年度の予算配分について生徒会とやり合う大切な時期なのよね?」沢辺先生が理解を示した。「良いんじゃない? 学級委員は一人出れば。最悪二人とも出られない場合は代役をたてることもできるはずよ」

 それだと発言権はなくなりますが、とは言わなかった。僕が出るのは決定だからだ。

「ごめんね、生出君」

「大丈夫、大丈夫」僕はにっこりと笑った。

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