だから
その週末は忙しかった。
いや実際にはそれほど何かに追い立てられたわけではなかったけれど、一年生の研修会にボランティアで参加している
僕が叩き台を作り、それを鶴翔さんに送って見てもらい、修正を繰り返す、という流れだった。
ただ、僕が送ったメールに鶴翔さんがすぐに返せるわけがない。彼女はあちらでも何かと忙しかったはずだ。二時間たっても三時間たっても返信が来ないなんて当たり前だと思う。僕もそれを見越して自分のしたいことをしていれば良かったのだが、結局そうもできなかった。
僕はほとんどずっとスマホが光るのを待っていた。
僕のスマホにメッセージが来ることはまずない。何しろコミュ障で、遊ぶ友だちはいない。今年は学級委員にされたので、それなりに言葉をかわす相手がクラスに何人もできたが、学校以外で関わることはなかった。
だからこうして鶴翔さんとメールのやり取りをするのは刺激的な出来事だった。彼女のメアドやSNSのアカウントは彼女が物理部に入部した際に手に入れていたが、今まで一度も使ったことがなかった。しかしこの四月は数えきれないほどやり取りをしている。
彼女にしてみれば僕は大勢いる連絡相手の一人に過ぎない。彼女と話をしていて、彼女のスマホが頻繁に鳴るのを僕は知っている。少なくとも学級委員である僕とのやり取りの五倍は誰かと何らかの連絡をとりあっているのだ。
鶴翔さんの体はあと四人くらい必要なのだと僕は思う。だから彼女の負担を少しでも減らすため、彼女の待ち時間をできるだけ減らすため、僕は彼女の連絡には間髪を容れず返信することにしていた。
彼女から連絡が入ればまず返事をして、依頼された件についての返事にどれだけ時間がかかるかだけでも知らせておく。こうすることで鶴翔さんは無駄に僕のことを待たずにすむわけだ。ほとんど自己満足の世界だが、僕は充実していた。
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