鶴翔さんは

 学級委員は男女一人ずつ二名選出されるのが僕の学校、御堂藤みどうふじ学園の慣例だ。

 そして女子の学級委員になったのが鶴翔知夏かくしょうちなつさんだった。彼女が学級委員に立候補すると対抗馬が立つことはなかった。彼女は一年生の時も学級委員をしていたし、何と言ってもこのG組で最も知名度が高い女子だった。

 なぜこんな、じゃない、に彼女のような才色兼備でコミュニケーション力が抜群の、意識高い系スーパーガールがいるのか不思議でならない。おそらくクラス分けを検討した際にバランスをとるために彼女をこのクラスに入れたのではないかと僕は邪推する。成績は優秀。学年三百名中の一桁ランカーだ。

 御堂藤学園は成績優秀者上位五十名を公表する。定期試験の後には掲示板に大きく貼り出され、それはまるで相撲の番付みたいに上位ほど名前が大きく印字されていて、順位一桁が目立つことこの上ない。

 自慢じゃないが僕も中等部一年の一学期にチョロっと載ったことがある。その優越感たるや、そこに載った者にしかわからないだろう。しかしそれも過去の栄光だ。

 何の話だったっけ。そう、鶴翔かくしょうさんだ。

 彼女と同じクラスになるのは初めてだったが、僕たちは面識があった。

生出おいで君、よろしくね。一緒にクラスを盛り上げていこう」

 ホームルームが終わった直後、鶴翔さんは真っ先に僕に声をかけてくれた。

 鶴翔さんがその気ならこのクラスは相当目立つクラスになるだろう。何しろクラス全体の元気とノリの良さは折り紙つきだ。そこに鶴翔さんのような存在感のある健康的な美少女が加われば鬼に金棒だろう。彼女はチアダンス部にも入っていたし、部活連の応援団や助っ人団にも所属していて、学園内に知らぬ生徒はいないのだ。

 その鶴翔さんが、僕みたいな影の薄い、ほとんどコミュ障と言われてもおかしくないダメ男と顔見知りなのは物理部にいるからだった。そう、僕も鶴翔さんも物理部の部員だった。専属の僕と違い、鶴翔さんは兼部だったが。

「鶴翔さん、今日部活は?」僕は物理部のことを訊いたつもりだった。

「部活連の会合に出て、その後、生徒会に顔を出して、それからチアダンに行く予定」太陽のような明るい笑顔で鶴翔さんは答えた。

「そうか、頑張って」

「ありがとう、生出君も頑張って」

 彼女は僕が物理部にいることを忘れているようだった。無理もない。鶴翔さんが物理部に顔を出すのは週に一度くらいなのだ。それでも何らかの痕跡を残すから彼女は常にいるような印象を与える。鶴翔さんは物理部になくてはならない存在だった。

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