世界を救ったパーティーの就活

死霊術師さんの華麗なる転職

 おれたちが村での生活をはじめて、そこそこの時間が経過した。

 おれは勇者であると同時に、パーティーを率いるリーダーである。

 リーダーたる者、パーティーメンバーの働きぶりには常に目を光らせておかなければならない。


「診療所?」

「はい。そうなんです」


 怪訝極まるおれの声に、隣を歩く赤髪ちゃんはぶんぶんと首を縦に振って頷いた。

 おれの気のせいかもしれないが、赤髪ちゃんとこうして話すのが随分ひさしぶりな気がする。まあ、おれの気のせいだと思うけど。

 ふんす、と鼻息荒く、赤髪ちゃんは話し始めた。


「この前の話し合いで、日雇いではなく継続的に稼げるお仕事を探す、というお話をしましたよね?」

「うんうん」

「だから、わたしたち全員、長く稼げる働き口を探しているわけじゃないですか」

「うんうん」

「賢者さんは村の子どもたちの教室に、賢者さんはギルドの受付案内に、賢者さんは農作物の魔術を用いた品種改良に、とみなさん順調にお仕事が決まっていたんですけど……」


 なんか賢者ちゃんしか仕事が決まっていない気がするが、ツッコむのもバカらしいのでそれはとりあえず置いておく。おれも結局日雇いの仕事しかできてないし。世の中とは世知辛いものなのだ。


「どうやら死霊術師さんは、診療所でお勤めをはじめたみたいで」

「へえ、診療所」


 忘れがちな事実ではあるが、死霊術師さんはああ見えて会社を起こして社会的な成功を収めている我がパーティーの常識人枠の一人である。

 育ちが良いから知識も教養もあるし、喋るのが上手いので当然交渉も上手だし、見た目が美人なので気品もあって第一印象も良い。ちょっと魔王軍の四天王をやっていた過去があったり、裏切ったりすることもあるけど、基本的には社会の中で生きるのが上手いタイプなのだ。基本的には。

 それにしても、診療所というのはちょっと意外なチョイスではある。


「ギルドで働き始めた方の賢者さんが、心配だから様子を見てこい、と」

「なるほどなるほど」


 賢者ちゃんも意外な働き口に興味があるのだろうか?


「ついでに、土木作業場で働いている賢者さんは「あなたたちはどうせまだ働き口も見つけられていないんでしょうから、暇潰しにちょうどいいでしょう」と」

「なるほどって言いたくないな」


 違った。単純に「あいつらどうせ暇だろ」くらいの感覚で仕事振ってるだけだった。

 どうやら土木作業場で働いている賢者ちゃんはおれたちのことを舐め腐っているらしい。失礼な話である。おれはきちんとギルドに行って、受付嬢の制服に身を包んでいるめずらしい賢者ちゃんを一通りからかったあとに、今日の依頼を貰ってきたというのに。なんかおれも赤髪ちゃんも賢者ちゃんとしか仕事の話してない気がする!


「でもまぁ、ちょうどよかったよ。おれも今日、ギルドから依頼を受けてきたんだけど、それが死霊術師さんの手を借りたい内容だったんだよね」

「本当ですか? それならちょうどよかったです! 一石二鳥ってやつですね!」

「赤髪ちゃんも一緒に来る?」

「いいんですか?」

「もちろん」

「はい! では、お供させていたただます!」


 と、このあとの予定を決めている内に、噂の診療所とやらに着いた。村のすみっこの方にひっそりと建っているだけあって、中々年季の入った外観だ。

 このあたりは開拓村が多いという話だったけど、新しく建て直さずに、昔からある建物をそのまま使っているのだろうか?


「すいませーん」

「はーい!」


 ガラガラ、と。横開きの立て付けの悪いガラス戸を開いて声をかけると、奥の方から死霊術師さんが出てきた。


「あらあらあら! お二人ともどうされたんです?」

「うわ」


 それはピンク色のナース服だった。どこからどう見てもナース服である。丈が短めなナース服であった。

 とても大事なことなので三回言いました。

 診療所。うん。診療所かぁ……。

 たしかに、診療所らしい格好ではあるけど。

 赤髪ちゃんが目をパチクリとさせながら、その服装を上から下まで眺める。


「死霊術師さん、なんというか……本当に看護師さんの格好なんですね」

「ええ、ええ! それはもう! 制服も貸し出してくださるということで、助かりました!」


 いつもは下ろしている黒髪は頭上できれいに結われており、ご丁寧にナースキャップまで被っている。喋って頷く度に、ウチのパーティーで最大の火力を誇る双丘がぶるんぶるんとそれはもう勢いよく揺れる。これはもう診療所というよりも、そういう感じのサービスを行ういかがわしい店みたいだ。

 いつものように体をくねくねさせながら、死霊術師さんは聞いてくる。


「勇者さま! 勇者さま! 如何です!? この格好!」

「うん、いいね。似合ってる」

「もう一声! もう一声お願いいたします!」

「えっちなお店みたいだ」

「勇者さん!?」


 赤髪ちゃんがおれの隣で目を剥く。

 おっと、いけない。のせられたせいでつい本音が漏れてしまった。

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