#4-4 蹂躙
そもそも自らの他に世界があることを知らなければ、自らの世界に名を付けるという行為には及ばない。
名前・名称とは、区別・識別するためのものである。ひとつしか無ければそのひとつを表す言葉で呼べばいい。
「それで――どうしてあなた方はこの“イノセンシア”にやって来たのでしょうか?」
だが
問われた側の
「私が答えます」
無人の部屋に個別に閉じ込められた四人の
ならば交渉の余地はあると、最も頭脳明晰な太白が包み隠さず全てを打ち明けた。
レルムは魔術による文明を栄えさせたために、夥しいほどの
そのため、この
対応する星府職員は柔和だった。
個別に隔離されているとはいえ、顔を見て話すことが出来たし、親身に話を聴いている素振りがあった。
だが結局彼ら四人は捕らえられたまま、隔離された部屋の各所に設けられた排気孔から排出された薬物の吸気により昏倒した。そして星府が兼ねてより進めていた
その
しかしレルムの民が侵入を果たした時、彼らはすでに魔術を知っていた。
その十年前。
レルム同様に、
その来訪者の名はヴァン・クレイズ・アンディーク――“アクロリクシア”と名のついた異世界にある
そしてその証として、彼の住まう国で創られた
彼の来訪が無ければ、今頃
だがこの四人が、
霊基配列は人間だけではなく、無生物にすら宿る存在の必須要素だ。それを取り出されてしまっては、その存在は存続することは出来ない。
そうして四人の霊基配列の複製を植え付けられた人工魔術士たちは
しかし
その薬液は
しかし成分の調整は難しく、
D4計画の走り具合は決して芳しいとは言えなかった。
そんな中で、レルムは帰って来ない・連絡すら取れない先遣の四人を追って、次なる部隊を送り出すことを決定する。
続いて選出されたのは、
「どうしてその部隊にあたしが入っていないんですか!」
レルムにおいて、全ての直接の決定権は魔術王にある。だから螢惑は自身の上官ではなく魔術王に直接抗議を行った。
「螢惑――お前は残る唯一の
(……このまま、黙って指咥えてろってか? ……くそっ!)
どう言おうとも――その決定が覆らないことくらい螢惑とて承知している。だが転移の間にしか異世界への入口は無く、いくら螢惑とは言えそこに忍び込もうとも転移陣を起動させることは王家の血が無ければ出来ないのだ。
身が捩じ切れる想いで螢惑はただ仲間たちの――とりわけ恋人である太白の――無事を祈り待った。その中で、自身があの
はやく逢いたい。
逢って労いたい。
抱き締めたい。
その肌の温度を、感触を、匂いを確かめたい。
だがその願いは叶うことの無いまま――――遂にレルムは、
そして螢惑は。
「螢惑、仲間を――仲間を、取り戻すのだ」
太白との別れからすでに経過した半年という短いようで長い時間に、感情の半分を削がれていた。
「――――御意」
触れた転移陣は温かくも冷たくもない光を放ち、螢惑の身体は湧き出た光に飲み込まれ、そして即座に闇に包まれた。
瞬きをしたような感覚で、気付けば目の前には戦火が燃え盛り、紛れも無い戦場がそこにはあった。
侵略へと乗り出したレルム――転移のために接続した、交わらぬ座標同士を繋ぐ
まさかそんなことが起こるとは――その場にいた誰しもが、そしてその場にいなかった誰しもが予想だにしなかった。
次々と起こる
レルムから降り立った戦略魔術士たちは
対抗しようと前線に躍り出た
地殻や地形までもが変異を齎され、また電子情報にも
もはやレルムも
熱が高いものから低いものへと移るように、レルムの荒れ果てた
現地にて
地獄絵図と言えば――誰もが「そんな生易しいものじゃない」と呟いただろう。
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