#4-5 宿命
全世界民に対する
その世界では珍しいことも無い、二重国籍が為せる二つの名だった。
星府はいずれレルムからの侵攻が開始されるだろうことを見越し、D4計画を公表した。
その裏側で秘密裏に、もう一つの計画を走らせる――その計画こそ、プロジェクト・ヴァーサスレルム。
その身に稀有な“未来予知”の能力を発芽させた原初の
インターネットとの接続を断たれたデータベースは
データベース内の世界民の情報は、それ単体がまるで一つの人格を有するような挙動を見せ始め、そしてその挙動は大元の各個人の性格や習慣に沿うものだった。
いつかイノセンシアは終末へと向かい、やがて滅びる――そうなったとしても、その情報群があり、そして仮に人体を人工的かつ自動的に構築する機構があったのなら。
星府は、滅びた世界に再び命が、そして文明が芽吹くことを信じていた。
そして夕星はその人体構築機構を守るという命題を得て自ら
すでに本体は醜い異獣へと変貌してしまったが、データベースには彼女の愛する姉の情報もあったのだから。
“太白型”の霊基配列に適合した夕星だったが、しかし
なまじ
だからこそ夕星は最後まで戦線に投入されなかった。
研究施設に半ば閉じ込められる形で、戦禍が拡がっていくごとにその存在を忘れ去られていった。
そこに、螢惑は忍び込んだ。
螢惑は
また、
しかしそこで地殻が
肉体から切り離されてしまった螢惑の
その頃には戦禍はもう落ち着き――世界は、滅び果ててしまっていた。
†
「――とまぁ、ざっくりと説明すればこのようになる」
語り始めてから既に二時間半が過ぎていた。
地表に比べ格段と環境の整った研究施設内で、それぞれが手に持ったマグカップからたなびいていた湯気は今は失われていた。
恐る恐る手を挙げたのは泉水。彼は
それを解消するために発した質問に、ゼファは慇懃無礼な口調ながらも実に丁寧に答えた。
ひとつ、またひとつと謎が解けて行く毎に――泉水の顔は逆に強張って行った。
彼の胸中に渦巻くのは、あの螢惑への感情だ。だがその感情に名前はまだ無い。
彼自身、螢惑のことは寧ろ好いていた。強く芯がある女性であり、竹を割ったような真っ直ぐであっけらかんとした明るい性格は非常に好ましかった。
螢惑自体が男性には興味の無い女性であることからも、泉水はともに行動した時間は短いがまるで男友達といるような親近感を得られた。
彼女が
だがその
だからこそ泉水は生まれたその感情に名前を付けられなかった。だが、どう頭を抱えたとしても――やはりそれに最も近しいのは“憎悪”だった。
「――
「……あんた、あいつらの肩持つってのか?」
じろりと
だがその口許は穏やかに笑んでおり、逆にその表情だからこその凄みがあった。
「余はあくまでもこの地の民を守るべく存在するだけ。
そしてゼファは虚空に目を泳がせる。釣られて夕星や泉水もそちらを向いたが、壁があるだけで特段変わったものは何もない。
だがゼファにだけは視えていた――――壁からにゅっと生えている、螢惑の半透明の耳だ。
自分自身がこの地の民では無く
だからゼファは大いに語った。
情報の出所はこの地の電子的記録のために偏っているかも知れないが、現状はそこしか情報の入手箇所は無いのだからしょうがない。
そしてそれだから故に、レルム側はこの事態をどう認識しているのかをも知りたかった。その二つを擦り合わせ、真実はこうだろうと断定することが出来れば――それは、レルムとプルステラ双方が歩み寄れる材料になる筈だと。
「いずれにせよ今は何も出来ん。明日、コロニーからの遣いが来るのだろう? ならば余らはそれを待つ他――――」
ない、と言いかけ、ゼファはぴくりと
すでに壁の耳は無かった――最もそれに近しい場所にいた螢惑は、いち早く戦場へと駆け出したからだ。
魔術を行使しうる存在が変異した
感知した瞬間に螢惑は確信した――――そいつは、
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ド # 4
ド
ド
ド
亡き世界のワーロック
2B-CONTINUED.
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