誕生日前日は、最悪の日

富本アキユ(元Akiyu)

第1話 誕生日前日は、最悪の日

お前、明日誕生日だろ?

俺、明日は都合が悪くてお前を祝ってやれそうにないんだ。

だから今日、俺が誕生日プレゼントとして飯を奢ってやる。


アイツからそんなメッセージが届いた。

誕生日プレゼントに飯を奢ってくれるらしい。

メッセージを返して待ち合わせ場所であるファミレスへと足を運んだ。

ファミレスの入り口で待っていると、アイツがやってきた。


「よお。来たな」

「おう。今日は、わざわざありがとうな」

「とりあえず店の中入ろうぜ」

「そうだな」


午後七時。

飯時の時間帯という事もあり、店はそれなりに客が入っている。


「今日は何でも好きな物頼めよ。奢ってやるからさ」

「じゃあハンバーグ。それからチーズドリアと鶏唐揚げ。ドリンクバー」

「デザートはいいのか?」

「後で注文するよ」

「そうか」

「あっ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

「おう。ゆっくり行ってこい」


アイツ、良いところあるじゃないか。

俺の誕生日を覚えていてくれたのも嬉しいし、まさか飯も奢ってくれるなんて。

俺はトイレを済ませて席へと戻ってきた。


するとアイツは、何やらニヤニヤしている。


「どうしたんだ?」

「ん?ああ。お前のスマホが大変な事になっていると思ってな」

「えっ?スマホが?お前、俺のスマホ勝手に触ったのか?」

「まあ見てみろよ」


俺はスマホを確認した。


「ああっ!?」


俺は大声で絶叫した。

アイツは、昔からイタズラが大好きな奴だ。

でもな、さすがに……


「お前な!!どうしてくれるんだよ!!今回のは、マジでシャレになんねぇよ!!」


あろうことかアイツは、俺がトイレに行ってる間に勝手に俺のスマホを触った。

そして俺のスマホに登録されている電話帳を全て消去したのだった。


「お前、マジでふざけんなよ!!」

「くそっ……。そうだ。バックアップは?」

「くそっ……。バックアップまで!!」


電話帳のバックアップデータも消されていた。


「あはははは!!!!あはははは!!!!」


アイツは腹を抱えて笑っている。


「お前っ……!!ふざけんな!!どうしてくれるんだよ!!」


俺は怒ってスマホを持って、そのままファミレスを飛び出した。

くそっ、最悪だ……。

俺の誕生日前日は、最悪の気分となった。

イライラがずっと収まらなかった。

そのせいかなかなか眠る事ができず、日付が変わった。

俺は、最悪な気持ちのまま17歳の誕生日を迎えた。


プルルルル……。

電話が鳴った。もちろん番号が表示されても誰からなのか分からない。

とりあえず電話に出てみる。


「はい」

「誕生日おめでとう。安田だよ」

「おお、安田か。ありがとう」

「今日はお前にとって良い日になると良いな。良い誕生日を。それじゃな」


電話は切れた。

俺は同じクラスの友達である安田を電話帳に登録した。


それから数十分。

プルルル……。また電話が鳴った。番号は分からない。


「はい」

「先輩、誕生日おめでとうございます」

「誰だ?電話帳が全部消えてしまってな」

「石井です」

「おお、石井か。ありがとう」

「良い誕生日になると良いですね。それじゃ」


すぐに電話が切れた。

俺は中学時代の後輩である石井を電話帳に登録した。

それから数十分。

プルルル……。また電話が鳴った。番号は分からない。


「はい」

「祐介。誕生日おめでとう」

「えっ!?お、叔父さん!?」

「そうだよ。良い誕生日になるといいな。はははっ」

「何が面白いの?」

「お前も薄々気づいてるだろ?」

「ええっ?!」


俺もなんだか少し察してきた気がする。

それから数十分。

プルルル……。また電話が鳴った。番号は分からない。


「はい」

「祐介。誕生日おめでとう」

「母さん」

「そうだよ」

「家の中からかけてるでしょ」

「うん。父さんからもかかってくるから」

「母さん。それ言っちゃだめだよ」


俺は笑って電話を切った。

それから数十分。

プルルル……。今度は父さんかな?


「もしもし」

「祐介。誕生日おめでとう」

「父さんもグルだったの?」

「まあな。あんまり長電話せずに早寝しろよ」

「わかったよ」


それから数十分置きに色々な人から電話がかかってきた。

俺の電話帳に登録していた人数は、親兄弟。親戚。友達。

全部で50人弱だ。

電話は鳴りっぱなしだった。

俺の電話帳は、無事に復元された。

アイツを除いて。


そして――

プルルル……。


「もしもし」

「俺だよー♪てってれー!!ドッキリ大成功♪」

「お前な……」

「お前の電話帳に登録してる人、全員に誕生日おめでとうドッキリ仕掛けようぜって、この企画を説明していくのは、結構骨が折れたぞ」

「心臓に悪いだろ。やめろよな」

「まあでも忘れられない誕生日になっただろ?」

「当たり前だ。忘れるかよ、こんな誕生日」

「飯は今日、もう一度行こうぜ。ちゃんと奢ってやるから」


俺は今日、またアイツとファミレスで待ち合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誕生日前日は、最悪の日 富本アキユ(元Akiyu) @book_Akiyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ