第6話 後悔
「氷野くん。ちょっとこっち来て」
成績発表があった昼休み。ご飯を食べる前にトイレに行っていた俺は、近くにいた野乃さんに声をかけられ、誰もいない階段近くまで誘導されていた。
「それで、聞きたいことって何?」
どうやら約束を覚えてくれていたらしい。ずるして勝ったことは申し訳ないが、俺が彼女を攻略するためには必要なことだ。そう思い準備していた質問を投げかけた。
「えぇと……告白されて好きな人がいるって言って断ったって聞いたんだけど、本当なの?」
「もうそんなに広がってるんだ……。でも、なんでそんなこと知りたいの?」
当たり前のことだが、彼女は、疑問そうな顔をしている。やばい。なんて答えようか……。用意してなかった。やっぱりアホだな、俺。
「えぇと……友達が知りたがっててさ、あと俺も知りたかったっていうか……」
なんかしどろもどろな発言をしてしまった。
「勝負は勝負だし……答えるよ。『好き』って衝動的に言ってしまったけど、あれは嘘なの。ちょっと気になってる人がいるだけ」
野乃さんは「別にいいんだけどさ」と言って、渋々名前は伏せていたが、教えてくれた。
ほんのり顔が赤くなってるから、「好き」寄りの気になっているだろう。
(おかしいな……)
確かに野乃さんは高1の最初の時期に告白されていた。
でも、彼女は、前回の高1では、「好きな人がいる」って言ってなかった。確か、「恋に興味がないから」って言って断っていたはずだ。
(なにか入学して変化したことはないか…)
俺は、前回と今回で変化したことを振り返って考えてみることにした。
(そうだ。俺はテニス部に入らなかった)
頭が冴えていたのかその違和感に気づいた。
(しかも、俺が前回初めて喋ったのは、テニスボールが彼女の近くに転がったときのような気がする)
「もしかしてテニス部に入ってる人?」
俺は考えているよりも先に言葉に出してしまっていた。
「え……なんで?」
彼女は、動揺をうまく隠せず、言葉が漏れてしまっていた。
(確定だ。俺がテニス部に入らなかったから、未来が変わったんだ)
「いや、なんとなくそんな気がしただけだから、違うんだったらいいんだ」
「あ……そう。だったらいいんだけど」
俺は、強ぶっていたが自分でもわかるくらい心臓の音が激しく鳴っていた。
(誰なんだ……。こんな美人な子に惚れられそうになっているやつは!!)
※※※※※※※※
「どうした?死んだ顔してるけど」
昼ごはんが喉を通らない。たしか先週も同じようなことがなかったか……。
「なぁ、俺が死んだらどうする?」
ぶっきらぼうに俺は、大夜にそう聞いていた。
「お前は、死なねぇだろ。なんか120くらいまで生きる気がする」
すると、冗談だと思っていたのか、さらに冗談で返された。いや、こいつの表情を見ると、これはちょっとガチで思ってるな。
「流石に、無理があるだろ」
「ていうかさ、あれみろよ」
大夜は、廊下の方を指さしている。俺もその方向に目線を動かすと、野乃さんと、チャラチャラした茶髪の男が見えた。
テニス部の先輩である2年の
前回の高1の時には、テニス部に入っていたから、よく知っているが、部内で1番強く、女子からキャーキャー言われていた。
そして、今の高校3年の部長が引退したあと、更田がテニス部部長として選ばれていた。
そんな先輩は、休憩時間は10分ほどしかないのに、わざわざ上の教室に来て、野乃さんと笑いながら話をしている。
彼女も、とても楽しそうな様子だ。
「ん?ちょっと待てよ」
「どうした?」
「あいつはだめだ……」
「あの先輩のことか?」
(確かあいつは、自慢げによく女をとっかえひっかえしてると豪語していた。いわゆるクズ野郎だ)
「チャラチャラしてるだろ?」
でも、ここで、そのことを正直に言っても、大夜は信じてくれない。逆に怪しまれる。そう思い、適当にはぐらかした。
「あはは。確かになぁ。野乃さんってああいうタイプが好きなんだな。まぁイケメンだけどさ」
「決めた。俺テニス部に入る」
「この流れで?」
前回の高1では、先輩のことなんてどうでも良かったから気にしてなかったけど、なにか証拠を野乃さんに突き出して、俺の評価を上げてやろう。
これしか俺が、彼女を攻略する手段にないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます